雫と虹

カナロア姫は僕が思っていた人魚姫とは全然違う。有名な人魚姫の話しでは、人魚姫は泡になってしまうけど、カナロア姫はそんなことなさそうだ。
そんなことを思いながら、海草の料理を食べた。意外と美味しかった。
だけど、ミンディはあまり好きじゃないみたい。嫌そうな顔をしていた。

「次はどこに向かうんだ?」

僕たちが食べ終わると(ミンディは残した)カナロア姫がそう問うた。その問いに、僕たちは少し驚いた。
だって、今まで旅をしていて、そんなことを聞かれたことはなかったんだ。
いつも、ここに行けと言われて行っていたから、行き先を特に考えていなかったことに初めて気がついた。だから、僕たちはその問いに答えられなかった。

「何だ、決めていないのか?」

カナロア姫は、逆に行き先がない僕たちに驚いたようだった。

「今まで、行った国の方に行き先を示されていたので、どこに行こうとか考えたことなかったんです。 何より、どこに行けば心の雫が手に入るのかもよくわからないし……」

レイニィは気まずそうに下を向き、その後は何かを考えていた。ミンディは、気まずいのか頭を掻いた。
僕何かはどんな国があるのかわからないから、絶対一人で旅することは出来ない。そもそも、一人だったら森から出ようとしなかったと思う。

「そうか。なら、東の海の国に行くといい。海の国は西と東に別れていて、二つあるんだ。 私は、よく東の姫に会うが、最近綺麗なガラス玉と手に入れたと聞いたよ。心の雫かはわからないが」

僕とミンディはぱぁあとなって、顔を見合わせた。お互いに笑顔だ。
だけど、レイニィはカナロア姫の言葉を聞いて、はじけるように立ち上がった (テーブルは岩なんだけど、珊瑚とか岩が椅子になっているんだ。だから、座っているとおしりが痛くなるんだけど)。

「どうした?」

カナロア姫はさっきの調子でレイニィに問うた。僕とミンディは驚いたんだけど、カナロア姫は驚いていないみたい。
レイニィは、何かを言いたそうにしていたけど、言葉が出てこないのかそのまま立っていた。

「レイニィ?」

そんなレイニィにミンディが声をかけると、レイニィははっと我にかえるっていうんだろうか。そんな感じになって、岩の上に座りなおした。

「ごめん。ちょっと考え事してた……」

レイニィは少し気まずそうに見え、胸の所の服を掴んでいた。僕は胸が苦しいのかと思ったけど、表情からそれは読み取れなかった。
レイニィは、カナロア姫に言いたいことがあったんだと思う。カナロア姫もそんなレイニィに気付いているのに、さっきの続きを話し始めた。

「東の海の国には、ウミガメに乗って行かなければいけないんだ。ウミガメはあとで貸してあげよう」
「あ! でも、僕たち、外に出ると息が出来ないんですけど!」

続きを話そうとしているカナロア姫に、ミンディが口を挟んだ。そういえば、ミンディは息が出来るのか試していたっけ。よっぽど苦しかったんだと思う。試す気はないけど。
カナロア姫は、話しの途中で割り込まれて、機嫌が悪くなった。だって、眉間にしわを寄せて、オーラが変わったんだ。

「ウミガメも息を出来る道を通る。陸な奴らはなんと不便なことか」

最後の言葉は少しトゲが含まれていた。眉間のしわも一層深くなった。
よく、本とかで笑っている顔が一番って書いてるのをよくみるけど、その通りだと思う。せっかくの、人魚姫なのに台無しだ。

「そ、そうですか。良かった」

ミンディは、自分が割り込んだことで、カナロア姫の機嫌が悪くなったことに気付いていた。レイニィは、まだ何か考え込んでいた。

「出発するなら早い方がいい。暗くなってからの海は怖いからな」

カナロア姫は本当に機嫌が悪いみたい。多分、これは遠まわしに、早く出て行けと言っているんだと思うんだ。
ミンディは申し訳なさそうにしているけど、ミンディはぜんぜん悪くないと思う。少しはミンディのせいかもしれないけど、カナロア姫が短気なのが悪いんだ。 せっかくの人魚姫なのに。
でも、ここでミンディは悪くないとか、カナロア姫が短気とか言ったら、ウミガメを貸してくれなくなるかもしれないから何も言えなかった。

「ウミガメたちは門の近くを泳いでいる。声をかけておこう」

カナロア姫はそう言い残し、すぐに尾を翻し、どこかへ行ってしまった。門の所に行ったのかな? やっぱり機嫌が悪かったんだ。
僕たちはそんなカナロア姫の姿が見えなくなると、ミンディがコソっと問うた。

「……どうする?」
「行くしかないと思うけど……レイニィは?」

僕はミンディに問われたけど、僕だけでは決めかねることだったから、レイニィに問うた。だけど、レイニィはまだ何か考え込んでいた。

「レイニィ?」

もう一度呼ぶと、レイニィは僕の方を見た。

「ご、ごめん。聞いていなかった。私は、ミンディとフィリカに合わせるよ」

レイニィ、一体さっきから何を考えているんだろう? 僕はミンディの方を見た。
ミンディは、困った感じで頭を掻いた。頭を掻くのはミンディの癖だと思う。

「じゃあ、ここに居ても気まずいし、東の海の国に行きますか」
「うん! 行こう!」

やっぱり、ミンディも頼りになる。てか、僕が頼りにならないだけだよね。  



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