雫と虹


女の人について廊下を歩いていると、僕たちは一枚の肖像画を見つけた。
ウミガメに乗ってきたときは、こんな肖像画なかったから、来た道とは別の道だとわかった。肖像画には、女の人と男の人がいた。二人で幸せそうで、 女の人はオトヒメ様みたいだけど、男の人は誰なんだろう?

「すみません、あの男の人は誰ですか?」

どうやらレイニィも気になったらしく、女の人に問うた。
女の人は歩くのをやめ、肖像画を見た。

「あの男の方はウラシマ様です。もう、ずいぶんも前に亡くなられてしまったのですが、オトヒメ様の恋人だった方です。 二人は、ここ竜宮城で暮らしていましたが、ある日ウラシマ様が地上へと戻られてしまったのです。 ウラシマ様は地上の方だったので、土が恋しくなったのでしょう。ウラシマ様が行ってしまわれた後のオトヒメ様は、それはお辛そうで……」

女の人は少し悲しそうだった。
オトヒメ様は失恋したことがあったんだ。この城はリュウグウジョウって言うんだ。

「すみません、変なこと聞いてしまって……」

レイニィは申し訳なさそうにうつむいた。

「いえ、気になさらずに。オトヒメ様は失恋の辛さを知っているので、雨の国の姫が心配なのですよ」

女の人は、そう言ってまた歩き始めた。
そうか、失恋って珍しいものじゃないんだ。僕もそのうち失恋するのかな。そのときは、物凄く落ち込んじゃったりするのだろうか。
それ以前に、心の雫が集まったら僕たちはどうすればいいんだろう。心の雫はレイニィの中に入っちゃってるけど、どうやって取り出せばいいんだろう。
僕はその話をレイニィにしてみようかと思ったけど、レイニィはオトヒメ様とウラシマ様の話しを聞いてから、また何かを考え込んでしまった。 話しかけたけど、集中していたらしく、僕の声が聞こえていなかったみたいだった。
暫く歩いていると、女の人は緑色の扉の前で止まった。

「こちらがお部屋になります。このドアは、鍵はついていないので、開けることは出来ますが、ドアお開けると、部屋があり三つのドアがついています。 そのドアはカードでしか開けることはできません。それと、町はこの先を行った所に曲がり角がありますので、左に曲がってください。 そして、真っすぐ進むと、町が見えてきます」

女の人は丁寧に僕たちに教えてくれた。曲がり角も指さして教えてくれた。
僕たちは、女の人にキチンとお礼を言った。そうすると、女の人はニッコリと笑い、来た道を戻って行った。
僕たちはいったん、荷物を置き、町の方に行ってみることにした。荷物を置いていったのに、ミンディはあの筆だけは持って行っていた。
女の人が言った通りに進むと、すぐに町は見つかった。今までに見たことのないような家が並び、僕は不思議な気分に陥った。 住んでいる人たちもオトヒメ様と同じような服を着ていた。

「見て! あそこに何か赤い旗が見えるよ!」

歩いていると、レイニィが何か書いてある旗を見つけた。
レイニィ、考え事はやめたのかな? 旗は、白い文字で何か書かれていた。何て書いてあるのかは読めないんだけど、文字の感じは丸い感じだ。

「行ってみよう!」

ミンディはそう言って、あの赤い旗めがけて走って行った。僕とレイニィも一歩遅れたけど、それに続いた。
何だか美味しそうなにおいがする。そのにおいは、旗の所に行くと強くなり、何人かの人が外に出ている椅子に座り丸い何かを食べていた。見たことのないものだけど、何だろう?

「もしかして、おだんご!?」

レイニィが突然黄色い声をあげた。その声に驚き、僕は思わず飛び上がった。

「私、一度食べてみたかったんだ! すみませーん、おだんご下さい」

レイニィはそう言うと、家の中に入り、カウンターみたいな所に行った。
僕たちの所に戻ってきたときには、パックの中に入った黒い何かがついたおだんごっていうの? を持って出てきた。
てか、文字は違うのに、言葉が通じるのが不思議。何でなのかな。おんなじ発音なのかな。
パックの中にはおだんごが三本入っていて、一本ずつ、丸いものが四個ついていた。これがおだんご。僕は今初めて知ったよ。おだんごっていうお菓子について。

「ん〜、おいしいー!」

レイニィは、パクっと一つの丸を食べ、至福の声をあげた。
そのレイニィの顔を見て、ミンディはカウンターの所に向かった。戻ってきたときには、茶色の何かがついているものを持ってきた。
ミンディはおそるおそる丸いのを一つ食べ、すぐに目を輝かせた。僕も急いで、カウンターに行き、二人が食べていない緑色のものを買った。
僕が二人の所に戻るとそれぞれのおだんごを一本ずつ交換した。

「フィリカの鶯だんごも、ミンディのみたらしも美味しいー! 私のは、あんだんごだよ」

レイニィは本当に幸せそうだった。僕たちもすぐに幸せになった。
だって、凄く美味しいんだ! 兄さんにも聖霊様にも食べさせてあげたい。

「あのおまんじゅうっていうのも美味しそうだよ!」

おだんごを食べた後、ミンディの声で僕たちはおまんじゅうっていうのも買った。おだんご屋さんで箱に入って売っているんだ。
緑のおまんじゅう(草もちって書いてあった)、茶色いおまんじゅう、白いおまんじゅう(大福っていうのと普通の白いので二種類あったよ!)を食べた。
色々な味があって、ついたくさん食べちゃったからお腹がいっぱいになっちゃった。夕ごはんも食べられないくらいに。
おまんじゅうの後はおせんべいとか、おしるこって言うのを食べたよ。どれも美味しかった!




僕たちは、町で遊んだあと、部屋に帰った。海の国には、シャワールームがついていなかったから、ちょっと残念だった。他の国はついていたから。今日は髪を洗えないな。
僕は疲れていたこともあって、僕たちはベッドルーム(部屋にあったのはベッドじゃなくて、床に布団が敷いてあった)に入りすぐに寝てしまった。
僕は夢を見た。見たこともない綺麗な女の人が僕に何かを話しかけているんだ。 だけど、声がでないのか僕の耳が悪いのか、声は聞こえなかった。何を言っているのかもわからなかった。そこで、目が覚めた。

「あ、フィリカおはようー」

着替えを済ませ、準備も済ませてベッドルームから出ると、ミンディがもう起きていた。今、何時くらいなんだろう?

「今何時かなー?」

僕はあくびをしながら言った。まだ、ちょっと眠い。

「七時過ぎ。俺、いつも七時に起きるから」

ミンディは筆の手入れをしていた。

「レイニィ、どうすると思う?」

確か、火の国の返事が今日だったはず。

「それはわからないよ。昨日の夜もずいぶんと悩んでいたみたい。祈りを捧げる声が聞こえてきたもん」

僕は聞こえなかったけどなぁ。あ、昨日はすぐ寝ちゃったんだ。祈りってことは、雨を降らせる練習でもしてたのかな。
僕とミンディが話していると、レイニィはベッドルームから出てきた。

「おはよー」

レイニィは眠たそうだった。
僕は、ベッドルームがベッドではなく、布団だったこととか、昨日の夢のことを話したかったけど、話す暇もなく僕たちは町に朝ごはんを食べに行った。
朝ごはんは、町の食堂に入り、朝ごはんというメニューを頼んだ。そうしたら、白いお米と味噌スープと目玉焼きがでてきた。美味しかった。
お米とかほっかほかでほっぺが落ちそうだった。兄さんにも食べさせてあげたいな。
そういえば、ここは海の物以外も出てくるけど、どこで調達しているんだろう? 
僕は初めてお箸でごはんを食べた。うまく食べられなかったけど、何か面白かった。僕たちはそこで、一応お弁当も買った。

「オトヒメ様は昨日の場所にいるのかな?」

部屋に荷物を取りに戻るときに、レイニィがそう言った。僕はすぐにわかった。レイニィが昨日の返事をしようとしていることに。
僕たちは荷物とカードを持ち、事前に町で買ったTシャツに着替え、昨日来た道を戻った。オトヒメ様は、昨日の部屋にいた。

「そちら、起きたのか」

オトヒメ様は、王座に座っていた。
昨日は髪をおろしていたけど、今日は髪型がクジラの噴水みたいになってる。頭の上にハートがあるみたい。どんなふうにしばってるのかな? ちょっと不思議に思った。

「昨日はよく眠れたか?」

オトヒメ様はにっこりと笑った。僕たちが頷くのを見ると、レイニィのことを真剣な表情で見た。
オトヒメ様は昨日の返事を聞きたいんだ。レイニィもオトヒメ様を見ている。

「あの、私。火の国に行きます!」

レイニィは、オトヒメ様をまっすぐに見て力強く言った。
オトヒメ様もその返事を聞き、嬉しそうに笑った。僕とミンディも笑った。レイニィも笑った。

「なら、火の国への行き方を教えよう。まずはウミガメに乗り、地上に出る。地上に着くと、霧が出ている。その中を進むと、一本の木が見える。 その木を目指して進むのじゃ。その木を過ぎると橋がある。この橋がある谷は霧の谷と呼ばれていて、村もある。 ここで、休んでいけばいいじゃろう。火の国からは、この霧の谷から行ける」

オトヒメ様がそう言い終わるやいなや、ウミガメが三匹部屋に入ってきた。ここに来たときと同じカメかな?

「このウミガメたちは妾のウミガメなのじゃ。西と東を行ききしておる」

オトヒメ様はウミガメの頭を撫でた。ウミガメたちは嬉しそうにしていた。
僕たちは、ここに来たときと同じようにウミガメに乗った。今度はおしりが痛くならなきゃいいんだけど。僕たちはあのカードをオトヒメ様に返した。

「オトヒメ様、色々ありがとうございます」

僕はオトヒメ様にお礼を言った。もちろん、ミンディとレイニィも。オトヒメ様は、またにっこりと笑った。

「地上までは、そんなに時間はかからないだろう。火の国を頼んじゃぞ」

オトヒメ様のその言葉を最後にウミガメたちは東の海の国を出発した。
僕たちはオトヒメ様の部屋を出るまで、手を振り、オトヒメ様も振り返してくれた。また、来たいなと思った。    



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