雫と虹


あっという間に海面に上がってしまった。何だか久しぶりに空を見た気がする。一日しかたってないのに。
でも、青空は本当に久しぶりだと思う。そよ風の村でみた以来かな? あまりのいい天気で僕はちょっとだけ眠たくなった。
ウミガメさんたちはゆっくりと海面を進み、どこかの浜辺に僕たちをおろしてくれた。おしりは結局痛くなったけど、海の中が綺麗だったからまぁいいか。

「ありがとう、ウミガメさん」

海に帰って行くウミガメに向かって、僕はそう叫んでいた。
海の中に居たのに、僕たちはどこも濡れていなかった。波がかかったとき、海の水は冷たかったけど、海の中にいたときは冷たいとか感じなかったな。ちょっと不思議。

「えーと、霧の中の一本の木を目指せばいいんだっけ?」

ウミガメたちが海の中へ消えるのを見た後、ミンディがキョロキョロと木を探した。
オトヒメ様は霧の中って言ってたけど、霧なんてどこにもないや。

「木より、霧が出ている場所を探した方がいいんじゃない? ここで固まっていてもあれだから別々に探そう」

レイニィはそう言って、僕たちが何も言っていないのに一人でどこかへと行ってしまった。僕とミンディはそんなレイニィを見ていた。

「じゃあ、俺たちも別々に探すかー。見つけたら叫べよ」

ミンディもそう言って、大きく伸びをし、レイニィとは違う方向へと歩き始めた。僕だけ一人取り残された。
ここまま、二人が迷って帰ってこられなくなったらどうしようって思うとゾっとした。
でも、僕がここにいても二人には会えない。そう思うと、自然の霧のある場所を探しに行けた。
浜辺は天気もいいし、ピクニックしちゃくなっちゃう。波打ち際を歩きながらそんなことを考えていた。あ、そうか。波打ち際を歩いているから霧が見つからないのか。
そう思うと、海とは反対の浜辺側も自然と目に入るようになった。浜辺のむこうは、草木が広がっていた。ここ、入江みたい。だって、山とかあるもの。
そのまま歩いて行くと、僕は大きな崖みたい山みたいなものにぶつかった。
それは、海の中に入っても続いていて、今いる反対の方向にも似たような崖みたいな、山みたいなものがあった。多分、この山の向こうに霧があるんだと思う。 どうやっていくのかはわからないけど。

「あれ?」

山の近くまで行ってみると、僕は人一人が入れそうな細い道を見つけた。整備された道じゃないけど、何人かが通ったんだろう。土が踏み固められている。
入口は藪で隠れちゃって、道のわきにも藪が生えているけど。そこだけ、道だけは藪はないんだ。

「ミンディ! レイニィ! 二人も来て!!」

僕はどこにいるかわからない二人に、ミンディがさっき言った通り叫んだ。
返事が返ってこなかったから少し不安になったけど、すぐにミンディとレイニィがやってきて、僕はほっとした。

「どうしたの? 何か見つけた?」

レイニィは足元が少し濡れていた。
その問いからレイニィはめぼしい所を見つけていないということがわかった。

「ほら、ここに道があるんだ」

僕は藪をよけ、二人に道を見せた。

「何か、怪しい道だね」

レイニィは道を見て、道の中に入った。うん、やっぱりこの道は一人で精いっぱいだ。
縦に並んでいくしかないね。もちろん、レイニィは太ってないよ。

「もしかしたら、木も霧もこの先にあるのかも」

ミンディがレイニィの肩の所から道の先をのぞいた。確かに、この道の先には何かありそうだ。
僕は緊張のあまり、手に汗をかいていた。

「行こう! 私は行く!」

道の入り口で、レイニィがそう決意をこめて言うと、一人で進んで行ってしまった。
ミンディはため息をついて、そんなレイニィの後を追った。僕も慌てて追いかけた。
道はやっぱり狭かった。僕たちは離れ離れにならないように、前の人に腰や肩に手を置き進んだ。僕はミンディの筆を掴み進んだ。
何か、電車ごっこみたいだなと思ったけど、口には出さなかった。
道は進めば進むほど不気味に静かになっていた。今の所木も霧も見えない。 きっと、オトヒメ様は陸に上がったことがないからこの道のことはわからなかったのかな? そのまま進んでいくと、うっすらと霧みたいなものが出ているのに気付いた。

「見て! 木が見える! あの形は木だよ!」

先頭を歩いているレイニィが、そう声をあげた。よくわからなかったけど、僕にも一瞬だけ見えた気がする。
だけど、歩くたびに霧はどんどん深くなっていった。きっと、あの木のとろこまで行ったら霧の谷なんだ。絶対そうだ。
そう思うと先が見えたようで少し嬉しかった。けど、木にたどり着く前に僕たちは何故か洞窟の前にいた。

「もしかして、道間違えた?」
「いや、一本道だったから、それはあり得ない」

レイニィとミンディが困惑しながら話しているのが聞こえた。僕もよくわからなかった。だって、木を目指していたのに、洞窟に来ているんだもん。
いつのまにか、木も見えなくなっているし。でも、僕はなんとなくこの洞窟の向こうに木がある気がした。

「ねぇ! 進んでみようよ! きっと、洞窟の先に木があるんだ。木が見えなくなったのは、 よくわからないけど、きっと、洞窟より木のある場所が上だったから見えてたんだと思う。だって、ほら。この洞窟、なんとなく坂道みたいになってない?」

僕は後ろから二人にそう言い、二人を押しのけ洞窟の中に入った。

「待って、フィリカ! もうお昼の時間だよ! 洞窟に入るのはいいけど、お昼を食べてからにしよう!」

ミンディは、ちょうど真上にある太陽を指差した。確かに太陽がちょうど真上にある。ってことは、ミンディの言う通りお昼の時間だ! 
そこで、僕たちはここで東の海の国で買ったお弁当を食べた。このときも、二人は洞窟の中に入ってこようとはしなかった。    



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