雫と虹


「二人とも、早く! 霧の谷はもうすぐだよ!」

食べ終わり、僕がそう言うと、二人は少し困惑しながら洞窟の中に入った。
洞窟の中は暗かったけど、中は広かったから三人で横になって歩くことができた。中をキョロキョロしていると、天井に光る目をたくさんみつけた。 きっと、コウモリでもいるんだろう。

「わぁ、何か凄く綺麗な場所に出たよ」

そのまま歩いて行くと、広い場所にでた。そこは、壁にキラキラと光る物が埋まっていて、そのキラキラ光る物がある所はキラキラと明るかった。 地面にも天井にも埋まっていたから様々な光を放ち、綺麗なんだ。青いのとか赤いのとかあるんだ。宝石なのかな? でも、宝石はこんな風に光らないよね。

「レイニィ! 雨の雫が青くなってるよ!」
「え!!? 本当だ!」

僕が一人ではしゃいでいると、慌てているミンディとレイニィの声がした。
雨の雫を見てみると、ミンディの言うとおり青色になっていた。ってことは、ここに心の雫があるってことだね。

「でも、どれがそうなんだ? 同じようなものがありすぎて、しかも埋まっているし。どうすればいいんだ?」

ミンディが壁に埋まっている青いのをとりだそうとしたけど、びくともしなかった。僕も透明なものを引っこ抜こうとしたけど、小さなカケラが落ちただけだった。
でも、その落ちたカケラはなんとなく心の雫に似ているような気がしたから、カケラを拾い、レイニィの所に持って行ったんだけど、床に埋まっている赤いのにつまずいた。

「わっ!?」
「フィリカ!」

つまずいたとき、ミンディが助けようとしてくれたけど、間に合わなかった。
僕は転び、手の中からあのカケラがレイニィのいる方に飛んで行ってしまった。 ちょうど、そのときレイニィはあくびをしていて、そのあくびの口の中にカケラ自ら入っていき、レイニィはいつものようにゴクンと飲み込んだ。

「あれ? 私、何か飲み込んじゃったみたいだけど、雨の雫が元に戻っているってことは、もしかする?」
「もしかする。フィリカが見つけたよ」

レイニィはおどけた感じで言ったけど、ミンディはそんなレイニィに呆れた声を出した。なんてったって、豪快に大きなあくびをしてたしね。
まさか、心の雫がこんなとこにあるとは思わなかったなぁ。だって、ここは洞窟の中だし、雨は入ってこないじゃん。風か何かで飛ばされて、ここまで来たのかな?


僕たちは、また歩き始めた。洞窟は案外単純な構造で、すぐに出口が見えてきた。最後は、上り坂でちょっときつかったんだけどね。 出口の所には、僕が思ったとおり、あの木があった。

「ほら! 僕の言った通り木がある! あれだよ、きっと。オトヒメ様は絶対あの木のことを言ってたんだ!」

僕は思わず興奮して、走り出した。濃い霧が出てたけど、そんなのお構いなしだ。
そのまま木を目指していくと、谷に出た。吊り橋があるから、ここがオトヒメ様の言ってた霧の谷なんだと思う。

「見てよ! 谷底に村があるよ!」

僕に追いついたミンディが谷底を覗き込み、言った。僕もちょっと危ないけど、覗き込んだ。確かに、霧の中に村がある。
 僕たちは谷に降りられる場所を見つけ、順番に谷に下りた。縄のはしごだったから、ちょっと怖かったけど、頑張った。
下に降りてすぐ、霧の中、一軒の家を見つけた。玄関の前に、白い中型犬が座っている。吠えられたら嫌だなぁ。

「どうする?」

ミンディが僕たちに問うた。だけど、その問いは意味のないものになった。ミンディが問うたあと、家から人が出てきたんだ。 犬が凄く喜び、尻尾をちぎれんばかりに振っているのが印象的だった。

「シロー。そんなに慌てるなよー。わかってるからー。ん?」

家から出てきたのは男の子で、メガネをかけていた。出てきてすぐ、犬のシロの頭を撫でながら僕たちに気付き、僕たちの方を見た。

「えっと、どなたですか?」

ちょっとだけ、警戒しているみたい。多分、家から出てきたら知らない人がいたから驚いたんだと思う。

「俺はミンディ。こっちが、レイニィで、こっちがフィリカ。俺たち、火の国に行きたいんだけど、行き方を知ってる?」

ミンディが、笑顔でそう聞くと、男の子も警戒を緩め、笑った。ミンディは凄いと思う。すぐ言葉が出てくるあたりとか。僕なんて全然ダメだもん。

「そうですか。僕はエアと言います。火の国まで案内します。シロもおいでー」

エアと名乗った男の子は、そう言って僕たちを自分の家に招き入れた。
でも、どうゆうことだろう? どうやって火の国に行くんだろう? 案内するっていうのに家の中って。ミンディとレイニィも不思議そうにしていた。

「どうしたんですか? 遠慮しないでください」

既に家の中に入ったエアが、シロの頭を撫でながら僕たちのことを呼んだ。僕たちは急いで家に入った。
家は木で出来た家で、中はすっきりとしていたけど、一部屋しかなかった。ちょっと、Tシャツじゃ寒かった。
でも、この部屋の感じ、僕は森の自分の家を思い出し、少し懐かしい気分になった。森の家も木で出来ているからね。それにこの香りは自然の香りだ。

「ちょっと待っててくださいねー」

エアはそう言って、僕たちにお菓子の飲み物を出し、暖炉にまきを入れた。確かにTシャツじゃ寒いかもだけど、そんなに寒くないから暖炉はいらないと思うんだけど。
僕はお菓子を食べながらそう思った。ミンディとレイニィもお菓子を食べた。

「あいつ、何やってんだ?」

ミンディが、エアの行動を不審そうに見ながら言った。もちろん、エアには聞こえない声で。

「火の国に連れてってくれるって言ってたけど。あ、このクッキー美味しい」

レイニィは、サクッとクッキーを食べた。

「きっと、火の国だから火がある方向に進むって感じで、火を用意してくれてるんじゃない?」

僕はそうだといいなって感じで言った。二人はそれなら納得できるって頷いた。
それから、暫くエアは火を起こす作業をしていて、僕たちはお菓子を食べていた。そしたら、食べすぎたのかお腹いっぱいになってしまった。夕ご飯はいらないかなー。

「できたー!!」

突然、エアがそう叫び、僕たちの足元で寝ていたシロがびくっとした。暖炉には赤い火が轟々と燃えていて、部屋の中が暑くなった。
エアは額の汗を拭い、笑顔で僕たちの方を見た。

「火の国は、この中です。さぁ、火に飛び込んでください!」
「「「え!!!?」」」

エアは、さぁ、どうぞって感じだったけど、僕たちはびっくりした。だって、急に火の中に行けって言われたら驚くよ。

「さぁ、まずはミンディさんから。さぁ、どうぞっ!」

僕が指名されなくてよかった。心の底からそう思った。エアは、ミンディを暖炉の前に連れて行き、思いっきり押した。

「うわっ!? あち、あちっ!!」

ミンディは押されたせいか、暖炉の中に倒れ込み、火の中でもがいていた。助けに行こうと思った。
だけど、僕たちが助けに行く暇もなく、すぐに火の中に消えた。

「み、ミンディ!?」

僕はミンディが焼けちゃったのかと思った。だから、暖炉のそばに駆け寄った。

「えいっ!」
「わぁ!?」

エアに押された。
僕のことを心配して駆け寄ったレイニィも押され、暖炉の中に倒れ込んだ。

「あ、あち! あちっ!」

僕は全身が燃えているような気がした。でも、その感覚はすぐに消えて、気付いたら暖炉の中ではなく、どこかの門の前にいた。周りに砂漠や火がある所の門の前に。
そこには、ミンディとレイニィもいて、僕はなんとなくここがどこだかわかった。



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