雫と虹


雷の落ちた場所はすぐにわかった。
宮殿の人たちが皆同じ方向に走っていたし、落ちた部屋のドア付近では、人があふれかえっていたから。
僕とミンディがその人ゴミに入ろうとしたとき、レイニィに服をひっぱられ、その場にとどまった。
雷の落ちた場所は王族がよくいる謁見の間だった。

「何だよ、レイニィ」

ミンディは、レイニィの方を見た。レイニィは、雨の雫を指差していた。
僕たちが雨の雫に視線を落とし、見てみると雨の雫は色が青色に変っていた。
僕たちは無言の打ち合わせをし、後ろから中の様子を覗うことにした。

「ミンディ、何が起こってるか見える?」

僕とレイニィは人の頭で見えなかったけど、ミンディは背が高いから、人の間から出来ごとを見ることができた。

「状況はよくわからないけど、王座を囲むように何人かの人がいる。 この国とは服も違うし、黄色と黒の縦縞の腕章みたいのをつけてるから雷の国の人だと思う。 それで、王座にはこの国の王だか王子だかわからないけど、男の人の王族が座っていて、その王族を守るように松明をもった人が四人いるよ。何か、ヤバイ感じだよ」

僕もどうにか人の隙間から状況をやっと見ることができた。
確かに、ミンディの言うとおりヤバイ感じ。

「だから、さっきからそんなものは知らないと言っているだろう」

王座に座っている火の国の王族の声が聞こえた。この人、この状況にまったく怯えていないや。

「お前がそれを、そうやって認識していないだけだ」

雷の国のリーダー格のような男の人が言った。大抵こんなとき発言するのはリーダーだ。

「何で、見ている人は誰も助けないのかな?」

僕はそれが疑問だった。誰も動こうとしない。
森ではこんなことあり得ないことだ。

「怖いんだよ。何されるかわからないし」

レイニィは少し緊張していた。雨の雫は相変わらず青い色をしている。

「あんなガラス玉のどこが必要なんだ。早く帰れ。これ以上、国を荒らすな」

男の人の後ろに小さな男の子がいる。ってことは、この人は王様だ。結婚とか子供がいる人は王子から、王様になるって兄さんから聞いた。姫の場合もそう。
赤い髪をした王様は、雷の国の人たちに凄んだ。だけど、雷の国の人たちはバカにしたように笑った。

「俺たちは集めているんだよ。あんたの息子の首にかかってるのをな」

よく見ると、このリーダー、口髭を生やしていて、夕暮れの街で遭ったあの口髭のおじさんに少し似ている気がした。

「レイニィ、あの王子が首から下げてるの、オトヒメ様が持ってたやつに似てないか? フィリカもそう思うだろ?」

ミンディが、僕たちだけに聞こえるようにヒソヒソと言った。
僕はそう言われてもう一度見た。確かにミンディの言った通り似ている気がした。

「私もそう思ってた。それによく見て。あのガラス玉、私の方に来ようとしてるんだ。普通ならブランと下がってるだけだけど、少しこっちを向いている。 私の中の心の雫に反応しているんだと思う」

レイニィの言うとおりだった。王子は、心の雫がこっちにこないように押さえてたから。

「今、心の雫って聞こえたな。そこのガキ、前に出な。誰のことだかはわかってるだろ?」

口髭の顔がいやらしく笑った。視線は相変わらず、王様の方を見ていたけど、僕たちのことを言ってるの? 
僕たちは怖くなってしまい、一歩も動くことが出来なかった。だって、僕たちは聞こえないような声でしゃべっていたのに。
そうしてたら、僕たちと同じくらいの歳の子が三人前にでた。三人ともすごく怯えていた。性別も僕たちと一緒だ。三人は時計を持っていた。僕たちは何が何だかわからず、顔を見合わせ、首を傾げた。

「ほう、お前たちは時間の国の者だな。心の雫を持っているんだろ? 渡して貰おうか」

口髭は、三人が持っている時計を見ながら言った。
僕は、この口髭が夕暮れの街とおじさんと同一人物でないことを心底願った。
そう願っていると、僕とミンディはレイニィにひっぱられ外へ出た。その間も、口髭の罵声と王様の止める声が聞こえたけど、レイニィは、僕たちをそのまま庭の方に連れて行った。

「どうしたの、レイニィ」

僕がレイニィに問うと、レイニィは真剣な顔をしていた。
まさか、火の国を見捨てるとか言い出さないよね?

「私、雨を降らす。あんなんじゃ、話しも聞けないし。雨を降らせば気が散ると思う。星空の国で、雨を降らせられたことは偶然じゃないはずだよ」

レイニィは、そのまま集中力を高め、祈りの態勢に入った。レイニィが祈りを捧げている間、僕たちは一言もしゃべらなかった。
僕は、あの子供たちのことが心配だった。心の雫を盗られちゃったんじゃないかとか、殴られていないかとか。
そう考えてたら、ミンディに肩をたたかれ、ミンディは空を指さした。その指の先を見ると、雨雲が出てきた。僕は心の中で感激の声を上げた。レイニィの祈りが届いたんだね! 
僕たちは雨が降り出すのを待った。レイニィも雨が降りだすまで祈りを止めなかった。 きっと、ここで雨が降れば、雷の国の人たちは雨の国が降らしていると思う。あの王子とかが持っているのは心の雫じゃないって思って、帰ると思うんだ。
雨が降り出すまで、そんなに時間がかからなかった。雨を降らせられるってことは、レイニィには姫の素質があるのかな? だったら凄いと思う。
雨は、初めポツポツって感じだったけど、次第に本降りになりはじめた。

「レイニィ! やったよ! 雨が降ったよ!」

僕は感激のあまり、まるで恵みの雨だといった感じにはしゃいでしまった。

「よし! 宮殿のあの部屋に戻ろう!」

レイニィはにっこりと笑った。



BACK|モドル|>>NEXT