雫と虹


僕たちが謁見の間に戻ると、ざわついていた。
突然の雨に驚き、窓に張り付き外を見ていた(何枚かの窓がわれていたけど、雷で割れたのかな?)。

「なぜ、雨が? あり得ない! まさか、雨の姫が目覚めたのか!?」

口髭はそう叫んでいた。時間の国の子供たちも外を見ている。

「お前たち、引き上げるぞ!」

口髭はそう言い、割れた窓から謁見の間を出て行った。他の仲間たちもそれについて行き、雷とともに消えた。
時間の国の子供たちもどこかへといなくなってしまった。

「一体、なぜ雨が? 誰かわかるものはいないか!」

王様は大声で、野次馬たちに問うた。そんな野次馬を掻きわけ、レイニィは前にでた。

「雨は私が降らせました。東の海のオトヒメ様に頼まれて。そのかわり、雷の国のことを教えてください。それと、王子のガラス玉を私にくれませんか?」

レイニィはまっすぐに王様を見てそう言った。王様もレイニィを見た。

「お前は、雨の国のものか?」

王様は静かにレイニィに問うた。レイニィは、コクンと頷いた。

「雨の国のレイニィです。太陽の国のミンディと、世界樹の森のフィリカとともに、心の雫を探して旅しています」

王様は野次馬たちを帰らせ、部屋には僕たちと王子、王様、松明を持った人が残った。
野次馬たちは不満そうにしていたけど、王様の命令を聞き、大人しく帰った。

「心の雫と言ったな? 雷のものたちもそう言っていた。心の雫とは本当に雨の姫の心なのか?」

僕は、王様の話しを聞いて何かが頭に浮かんだ。雨の姫の恋人は時間の王子。時間は、過去、現在、未来。時間を操れる。
もしかして、新しい姫を探すために心の雫を砕いた? 雨を降らせられるのは姫だけだ。でも、レイニィは雨を降らせた。レイニィは次の姫に選ばれたってこと? 
全ては時間の王子の策略なのかな? でも、その可能性はなくはない。だって時間を操れるんだ。何だって出来るさ。

「そうです。心の雫はピオッジャ姫の心です」

レイニィの声で僕は思考の世界から戻ってきた。
思考の世界は海のように広くて深いから一度はまると中々帰ってこられなくなる。

「他の心の雫も持っているのであろう?」

王様の言葉は見せてくれと言ってるようでもあった。だけど、その問いにレイニィは困ったように下を向いた。

「お見せすることは出来ません。私の体の中にあるんです」
「体の中とな?」

王様は不思議そうな顔をし、続けた。

「だか、それは姫の心であろう? なぜ、他人であるお前の中に入ることが出来るのだ?」

僕は王様の言葉でまた思考の海に溺れた。確かに王様の言う通りだ。
他人の心が他人に入ることはまずない。聖霊様もそう言っていた。何でおかしいって気づかなかったんだろう。もしかしたらあれは心の雫じゃないのかもしれない。

「確かにそうだ。だけど雨の姫は眠りについてるんだよね? それは心がない証拠。もしこれが心の雫じゃなかったら、なんなんだ? そして心の雫はどこにあるんだ?」

ミンディも僕と同じように疑問に思ったみたいだ。
でも、ミンディの言うとおりだと思う。僕たちが集めているのは一体何なんだ?

「その首からさげている物は何だ?」

王様はレイニィの雨の雫を見て言った。
僕たちが探しているものが心の雫じゃなければ一体何に雨の雫は反応してたんだ?

「これは雨の雫と言って、心の雫が近くにあると青色になるんです。今は王子のに反応して青色になっています」

レイニィはそう言って王子のことを見た。
王子は視線を感じて王様の後ろに隠れ、王様はそんな王子の頭を撫で、レイニィの方を見た。

「火の国にも似たような物がある。それは心を感知するものではなく火の結晶を感知するものだ。 火の国では火に認められ王位を継ぐときに次の国を導くものに火の結晶を渡し、火を司る力を受け継ぐことになっている。いずれこの子もそうなるだろう」

王様は自分の脚にしがみついている王子の頭をまた撫でた。

「じゃ、心の雫もその結晶っていう可能性がありますよね?」

ミンディは僕と同じことを考えていた。僕はその結晶の方の可能性が高いと思う。
それならレイニィが姫じゃないのに雨を降らせることが出来たのがわかる。レイニィは雨に認められたってことだ。

「アグニ、お前のガラス玉をレイニィに渡しなさい」

王様は王子に厳しい口調で言った。
アグニ王子は王様の顔を見て、素直に父親の言うことに従い、ガラス玉をレイニィに渡した。
ガラス玉はレイニィが触れると、オトヒメ様のときと同じように粉々に砕け、レイニィの口の中に入った。外の雨は止んでいた。

「もしかしたら俺たちも雷の国も時間の王子の策に踊らされているのかも」

ミンディが独り言のように言った。
そうなのかもしれない。姫と王子の恋がいけないのなら姫をやめるっていう考えなのかも。

「私は真実が知りたい」

レイニィはまっすぐな目をしていた。
レイニィの瞳には揺るぎない強さと光が宿っているのが見えた。

「俺もレイニィと同じです。俺は雨が降らなくなり帰れなくなった。だから本当のことが知りたい」

ミンディも真剣そうだ。もちろん僕だって。
そのためには、時間の王子に会わなければいけない。王様が行き方を教えてくれると思った。でも、その期待は裏切られた。

「時間の国は時間の中にあり、私は行き方を知らないのだよ。雷の国ならわかるのだか」

王様は申し訳なさそうに言った。知らないのは王様のせいじゃない。

「雷の国は心の雫を持っていると思いますか?」
レイニィは王様に問うた。王様は割れた窓から空を見上げた。

「本人たちとその話をしたことがないからわからないが、私は持っていると思うよ」
「私もそう思います。後、雨の雫のような見分ける物を持ってないと思うんです。だから、さっきも直ぐにいなくなったんだと思います」
「うむ、確かにそうかもしれない。雨が降ったとたん去ったからな」

王様と話していたレイニィは急に僕たちの方を向いた。

「私、雷の国に行って心の雫を取り返しに行こうと思う。二人も一緒に来てくれるよね?」

レイニィのニュアンスは来てほしいと言った感じだ。もちろん、心は決まってる。

「当たり前だろ」
「僕たちもついていくよ」

僕とミンディはにっこり笑った。
レイニィも笑った。レイニィは王様の方を向いた。

「私たち、雷の国に行きます。行き方を教えて下さい」

僕とミンディも王様の方を見た。



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