雫と虹


「そうか。なら、こっちに来なさい」

王様は僕を窓際に呼んだ。
外は雨が降った後ってこともあり、キラキラとしていた。植物も元気いっぱいだ。

「君たち、ここからわっかのような雲は見えるかい?」

王様は空を指差して僕たちに言った。

「あの、ドーナツみたいなの?」

僕が雲を探しているとミンディはもう見つけたらしく僕の隣でそう言った。僕も見つけることが出来た。
太陽が夕日に変わっていた。

「あのわっかの中を通ると、雲の海がある。その雲の海の上に雷の国はある」

雲の海って聞いたとたん、僕はあんなに乱暴そうな人たちがいる雷の国に行くっていうのに、ドキドキしてきた。

「雷の国までミンディの筆で行ける? 三人乗せて飛べる?」

レイニィは、ミンディがいつも背負っている筆を見て、ミンディを見た。
レイニィは忘れていたことがある。僕はそれにすぐ気付いた。

「飛べるかだって!? 星空の国で五人乗せて飛んだのをもう忘れちまったのかい!? しかも、レイニィがやれって言ったんだぞ!」

ミンディはちゃんと覚えていた。
レイニィもそれを聞いて思い出したのか、恥ずかしそうに「そうだったね」と笑った。

「もう! 忘れてんなよ! 五人も乗せたから筆が折れると思ったぜ!」

ミンディは、ちょっとだけ怒った。これで、どうやって雷の国行くかが決まった。
太陽はすっかり沈んでいた。

「君たちはこの国の恩人だ。雨を降らせてくれたおかげで、木々たちも嬉しそうにしておる。 できれば、もう一度雨を降らせてほしいのだが……。雷の国に行くのは、旅の疲れが取れてからでもいいだろう。何が起こるかわからないからな」

王様は、そう言ってあの松明を持っている人たちに僕たちを空いている部屋まで案内するように言った。
その後、色々説明してくれた。この国は火山があるから温泉があるとか。 温泉とか知らなかったけど、すごく気持ちよくて、ミンディはすっかり気にいっちゃったみたい。暇さえあれば、入りたいって言ってた。




結局、王様の言葉に甘えて火の国には五日ほど泊めてもらった。 砂漠の迷宮って呼ばれている流砂の下を探検してみたり、温泉に入ったり、火山に登ってみたりと。
帰る日の前の日、レイニィはもう一度雨を降らせた。朝降らせたからか、レイニィが雨を降らすのを慣れたからか、 心の雫が多くなったからかわからないけど、雨は一日中降っていた。
火の国にいて唯一不満なことがあるとすれば、食べ物が辛かったことかな。でも、また来たいと思った。 森から出たくないと思ってたこの僕が。
一日中降ってた雨は、木々を潤し、池に少しばかりの水を戻した。




五日目の朝、僕たちは謁見の間に向かった。もちろん、朝ごはんを食べた後。
謁見の間の扉をノックするとすぐに返事が返ってきて、僕たちは中に入った。

「出発するのかね?」

王様は、謁見の間にきた僕たちの姿を見て、そう問うた。

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」
「いや、世話になったのはこちらだよ。二回も雨を降らせてもらって」

王様はお礼をいったレイニィににっこりと笑いかけた。

「雷の国は、乱暴で短気なものが多い。君たちもあの髭の男をみただろ? これを持っていくといい」

王様はそう言って、僕たち一人一人に赤い何かのカケラをくれた。 赤い、赤いでも、そのカケラの中で何かが揺らめいていて、まるで火のカケラみたいだと思った。

「それは、火のカケラ。火の結晶の一部だ。火の結晶の持ち主でなくても、一度だけ火を起こすことができる。 使いたいときは、投げなさい。そうすれば、火が出てくる。持っていて、損はないはずだ。上手につかいないさい」

王様は優しそうに笑っていた。

「「「ありがとうございます!!!」」」

僕たちは三人同時に王様にお礼を言った。何だか少しおかしかったけど、同時に嬉しかった。 優しくしてもらったのが、嬉しかったんだと思う。
僕たちは王様にお別れを言い、ミンディの筆にのって雲のわっかを目指した。



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