雫と虹


ミンディの筆は、三人も乗っているせいか、それともミンディが飛ぶのが下手だったせいか(ミンディは、そんなこと一言も言ってないけど)、ふらふらとしていた。 わっか雲はまだ遠い。

「ちょっと! もっと速く飛べないの!?」

一番後ろで、筆にまたがっているレイニィがイライラしながらミンディに言った。

「うるさいな、定員オーバーなんだよ」

ミンディもイライラしていた。僕は、そんなイライラしている二人の間だから、少し気まずかったし、居づらかった。
早くあのわっか雲を通り越してほしいと思った。こんなことで助けてほしいと思ったのは初めてだ。 聖霊様みたいに翼があったらこんな思いはせずに自由に空を飛ぶことができるのに。帰ったら頼んでみようかな。色々な所にも行ってみたいって思うようになったから。

「フィリカ、火の国がキラキラしてるよ」

僕が考え込んでいると、レイニィに肩を叩かれた。
レイニィは下に広がる火の国を指さしていた。僕はちょっと怖かったんだけど、下を見た。

「わぁ、凄い!」

多分、雨が降っていたからだと思う。凄く、キラキラと光っているんだ。池も緑も砂漠も。まるで大きな宝石みたい。 雨は自然の宝石を作る元だったんだね!
そうこうしている間にもミンディの筆は、ゆっくりとふらふらとわっか雲に近づいて行った。 近づくとわかる。このわっか雲、もこもこしてるけど、意外とデカイ。
ミンディの筆はやっぱりゆっくりふらふらとそのわっか雲のわっかを通り抜けた。そうすると、急に世界が変わった。

「これが王様の言ってた雲の海?」

ミンディは下に広がる雲の海を見て呟いた。ただ、雲がくっついているって言われたらそうかもしれないけど、これは見た人にしかわからない。 雲のもこもこしている所が、波みたいにみえて本当の海みたいに見えるんだ。 何より僕たちの上にも雲が広がっていて、その隙間から太陽の光が見え、その光りが雲の海に差し込んでいてものすごく綺麗。

「雷の国はこの上にあるんだよね?」

レイニィは僕たちと違い、上を見ていた。火の王様はこの上に雷の国があるって言ってたけど、そんな国っぽいものは見えない。 でも、あの人が嘘とかいうとは思えなかった。
とりあえず、僕たちは上の雲の上に出た。雲の中に居るとき、僕は雷の音を聞いたような気がした。
雲を抜けると、それはあった。空の上に浮かぶ国。空飛ぶ国は、周囲を壁でぐるりと囲まれていて、底を見てみると、底は丸い底で、何か尖がったものが出ていた。 その尖ったものから尖ったものへとバチバチと稲妻が走っていた。

「これが雷の国?」

一番前にいるミンディが問う。その間にも、ミンディの筆は天空の国に近づいて行った。

「なんともいえないけど、そうだと思う」

レイニィがそう言った瞬間、あのバチバチしているとこからどこかに雷が落ちた。 その雷で、僕たちは雷の国だと確信した。
筆は、雷の国の壁を超え、僕たちは中に入った。人の気配はない。僕たちはそれを確認すると地面に降りた。 ミンディは僕たち全員が筆から降りたのを確認すると、いつものように筆を背中にせおった。

「雷の国の奴らには、私たちのこと知られてないよね?」

レイニィは、少し不安そうに見えた。火の王様が雷の国は短気で乱暴者だって言ってたからだ。
僕だって、怖くてドキドキしている。

「多分、火の国であった口髭、夕暮れの街であったおじさんだよ」

ミンディが、顎を触って口髭を手で表現した。やっぱり、ミンディもそう思ってたんだ。 だって、口髭も顔も似てた。あの人は僕たちのことを覚えているのかな? でも、何であのとき星空の国に行けって言ったのかな?  コカブがいなきゃ箒星に貫かれてしまう。それを知ってて行けっていったのなら……。そう思うと、怖くなった。

 僕たちは、街中ではなく、裏路地を歩いた。何か、この国の人、黒と黄色に縦縞を必ず身につけていてちょっと不思議だった。 僕たちも何かそうゆうのを持ったほうがいいのかな?

「皆、そんなに乱暴そうに見えないけど」

レイニィが、裏路地ですれ違う人を見ながら言った。裏路地を歩く人は皆急いでいるみたいだけど、どこかに行くのかな?  うん。レイニィの言うとおりそんなに乱暴者には見えない。

「心の雫は、城とかに保管されてるのかな?」

ミンディは、国の真ん中にそびえ立つ城を見て言った。この国の城は、火の国の宮殿と違い、今まで見てきた城に近い感じだ。

「そうだと思う。雪と氷の国でもそうだったし。真正面から入ると気付かれるし、忍び込んでみる?」
「え!?」

思わず声を上げてしまった。だって、レイニィがあまりにも突拍子のないことを言うからびっくりしちゃったんだ。
だって、忍び込むってどうやって!?

「俺もレイニィに賛成。真正面から入って、見つかって大変なことになるのも嫌だし。フィリカは忍び込み、反対?」
「え、別にそうゆうわけじゃないけど……」
「じゃあ、忍び込もう」

まさか、ミンディもそう言うとは思わなかった。ちょっと、っていうかかなり驚いた。
でも、真正面から入って、あの時間の国の子供たちのような目にあいたくない。だったら、忍び込むしか方法ないのかな。でも忍び込みだと見つかった時怖いよね。

「わっ!? 二人とも待ってよ!」

僕がのろのろしているうちに二人はもう前を向いていた。



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