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| 雫と虹 
 
 僕たちはあまり人に見られないようにしながら城へと向かった。僕たちは考えが甘かった。
 今まで行った国は、不用心なのか、そうじゃないのか門番とかはいなかったけど、この国は門番がいたんだ。武器を持った門番が。
 門も閉まっていて、運が悪いと嘆いた。しかも、城の周りは高い城壁がある。
 
 「また、ミンディの筆を使うしかないね」
 
 レイニィはミンディの方を見た。僕もそれが一番いい方法だと思った。でも、ミンディは嫌そうな顔をした。
 何かブツブツといいながら筆を背中からおろし、僕たちはさっきと同じように筆に乗った。
 筆は、のろのろと動き始め、のろのろと飛んだ。でも、僕はその、のろのろが良かったんだと思う。
 早く動くと、風を切る音が聞こえるから。のろのろだと、何も聞こえないもの。
 僕たちはどうにか城壁を超えて、城の庭の中に入ろうとした。だけど……。
 
 「何なんだ、お前たちは!」
 
 僕たちが降りようとしていた所には、三人の人がいた。何てタイミングで運も悪いんだろう!
 僕がそんなことを嘆いていたら、レイニィの手が急に表れ、あの火のカケラを投げた。カケラが地面にふれたとき、大きな火となって燃え上がった。
 
 「な!? ど、どこから火が!?」
 
 三人の男たちはパニックに陥った。その人たちは火元がわからないから。
 その間に僕たちは地面に降り、筆からも降りた。
 
 「ミンディ! どこに行くの!?」
 
 僕とレイニィが城の方に向かう中、ミンディだけはパニックに陥っている男たちの方に向かった。
 男たちは突然出てきた火に慌てていて、背後から忍び寄るミンディには気づかなかった。ミンディは、そんな男たちを次々と筆の柄で殴り、気絶させた。
 
 「こいつらの、腕章をとって潜入しよう!」
 
 ミンディは、そう言い三人の腕章ととり、僕たちに渡してくれた。
 レイニィが投げた火のカケラはまだ燃え上っている。ミンディは、その火で焼けないように男たちを火の届かない物陰まで引きずって行った。
もちろん、僕たちも手伝った。でも、ミンディの出際のよさに、僕はびっくりした。
 
 「火に気付いて城の人たちが出てきたね」
 
 周りがざわついてきた。なのに、レイニィは冷静に腕章をつけた。ミンディもつけおわっていて、やっぱり僕が最後だった。
 
 「よし、行くぞ」
 
 僕が腕章を着け終わるのを確認すると、ミンディは堂々と物陰から出て行った。
 レイニィも堂々と出て行き、僕は慌てて二人について行った。
 
 「おい! そこの三人。何があった!?」
 
 どこからか、男の人がやってきた。火を消しに他の人も集まってきていた。
 僕はその男に話しかけられて、心臓が口から飛び出すかと思った。
 
 「よくは知らないんですが、急に空から火が落ちてきたんです。火の中に人影を見ました。それで今、人影を追いかけている所です」
 
 やっぱりミンディは凄いと思う。僕なんて声をかけられただけで怖くなってしまうのに平然と嘘をつけるなんて。
 しかも逃げたと行った方はこれから僕たちが向かう道だ。
 
 「そうか、ならお前たちはそいつを追え。俺たちは火を消してから追いかける」
 「わかりました」
 
 男はミンディにそう言い、他の人たちと消火作業に行った。火はまだ轟々と燃えていた。
 
 「ミンディ、あんた凄いじゃん! 話かけられたときはどうしようかと思ったよ」
 
 レイニィは少し興奮していた。でも、ちゃんと声の大きさには気をつけて周りには聞こえないような声で言った。
 ミンディは褒められて恥ずかしそうにしていたけど、同時に自慢気でもあった。
 
 「あんなときは堂々としてなきゃ駄目なんだぜ。フィリカはビクビクし過ぎ」
 「だって……」
 
 確かにミンディの言う通りだ。僕はさっきからビクビクしまくっている。
 どうしたらミンディみたいに堂々としてられるんだろう? きっと自分を信じているからだ。
自分を信じるってことは凄く大切なことだと思うけど、簡単じゃないんだ。でもね、自分を信じることが出来たらどんな奇跡も起こせると思うよ。
 
 「見て! あそこの扉開いてる!」
 
 レイニィが開いている扉を見つけ声をあげた。扉の前には門があり、扉も凄く大きかったから正門だということがすぐにわかった。
 きっと、消火作業に来た人たちがあそこから出てきたんだと思う。それにしても、もしかして二人は堂々と忍び込む気なのかな?
 
 「よし。行くぞ」
 
 ミンディ、緊張しているみたい。ぎゅっと握った手から汗がおちてくるのが見えた。
 僕たちはミンディの言葉で合図に正門へと向かった。堂々と振る舞う。そのおかげかどうかわからないけど、予想外にすんなり入ることができた。
 城の中もよくある城って感じで、本で見た城にそっくりだ。
 
 「心の雫はどこにあるんだろう?」
 
 レイニィは独り言のように言った。まだ雨の雫は青くなっていない。この近くにはない
ってことだ。
 僕たちはいつのまにか階段を上っていて、いつの間にか大きな扉の前にいた。
というか階段を上ったちょっと先にその扉があったんだ。僕たちはなんとなくこの部屋がなんの部屋かわかっていた。
 
 「ここ、謁見の間だよね」
 
 レイニィが確認するかのように言った。
 
 「そうだと思う」
 
 ミンディは息をのんだ。僕たちはわかっていた。この部屋に入れば心の雫がどこに隠されているかが。
 でもこの部屋に入ったら僕たちの正体がバレる。でも、行くしかないんだ。
 
 「入るよ。入らなきゃ進めない」
 
 レイニィは決意を込めたのか、自分を奮い立たせるためか、拳を握った。
レイニィは気づいてないのかな? もしかしたら次の姫になることを。
 
 「レイニィの言う通りだ、行こう!」
 
 ミンディはドアノブに手をかけた。ノックするためのライオンには触らず、そのまま扉を開けた。
 僕は何が起きるかビクビクしてたけど、何も起こらなかった。それどころか誰もいなかった。
 
 「誰もいない?」
 
 レイニィは部屋の中に入り本当に誰もいないか確かめた。
僕たちも部屋の中に入った。天井のシャンデリアが凄く印象的。まだ雨の雫は青くない。
 
 「いました! あいつらです!」
 
 僕たちの後ろから男の声がした。その声で僕たちは後ろを振り向き、扉が開けっ放しになっていたことに気づいた。
 そこには口髭もいて、出口を塞がれてしまった。口髭以外の男は、ミンディが腕章を奪った三人組だ。
 
 「もっと強く殴っとけば良かったぜ」
 
 ミンディは冗談ぽく言った。だけど、殴られた男たちはそれを冗談としてではなく挑発として受け取り何か騒いでいた。その間、口髭は僕たちのことをじっと見ていた。
 
 「お前たち、夕暮れの街にいた子供たちか?」
 
 口髭は僕たちのことを覚えていた。何でここにと驚いていた。
 初めて会ったときはいい人だと思っていたのに。口髭たちは僕たちに鑓のような武器を向けた。
 
 「どうする?」
 「どうするも逃げるしかないだろ」
 
 レイニィとミンディがコソコソと話している。口髭たちには聞こえてないみたいだ。
 
 「おい、何を話している? 夕暮れの街で心の雫について話していたな。持っているなら全て渡せ」
 
 口髭は僕たちを睨んだ。明らかに脅しているけど僕たちは怖くなかった。だって心の雫はレイニィの中だもの。取り出せないでしょ。
 
 「さあ、心の雫を渡せ」
 
 口髭たちは僕たちをジリジリと追いつめていく。横目でチラリとミンディたちをみたけど二人は何も困ってはいなかった。
 
 「俺が三秒数えたら入口に向かって走るぞ」
 
 ミンディは口髭たちに聞こえないように小声で言った。僕たちも頷かない。
 
 「一……二……三!!」
 
 ミンディの声が響いた。その瞬間僕たちは入り口に向かって走り出した。男たちの後ろにある入口。
 そのとき僕は見た。ミンディが火のカケラを口髭たちの方に投げるのを。火のカケラは直ぐに火に変わった。
 
 「なっ! どこから火がっ!?」
 
 口髭は急に現れた火に驚き、必死で火を消そうとしていた。僕たちはその火のお陰で楽に謁見の間を出ることが出来た。
 火の王様、凄くいいものをくれたんだな! 僕たちはこの火のカケラのおかげで二回も救われた。
 
 「これでフィリカのだけになっちゃったな」
 
 その場を離れ走っていたとき、ミンディが言った。そうか、レイニィもさっき投げちゃったんだ。
 僕はこのカケラをどのタイミングで使えばいいんだろう。二人みたいに上手く使えるだろうか。
 
 
 
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