雫と虹


「ユピテル王子! 何で、お前たちがここに居るんだ!!」

突然、扉が開き、口髭たちが入ってきた。きっと、ユピテル王子が無事かどうか確かめにきたんだろう。
口髭たちは槍を(先端が、バチバチいってる)武器を僕たちに向けた。

「ジュノー……」

ユピテル王子が呟いた。この口髭、ジュノーって名前なんだ。

「お前たち! はやり王子の命が狙いで! 子供だからといって容赦はしないぞ!」
「待て、ジュノー。私の話しを聞け」

口髭ジュノーがそう僕たちに怒鳴り、とんでもない勘違いをした。だけど、そんな口髭ジュノーをユピテル王子が止めた。
ジュノーはすっかり大人しくなり、ここだけのユピテル王子を見ているとさっきのユピテル王子は想像つかないだろうと思った。

「ジュノー、もう心の雫は集めなくてよい。そして、今まで集めたものをここへ持ってこい」

ユピテル王子ははっきりとした口調でそう言った。口髭ジュノーは、何を言っているんだ? という顔をしたけど、何かをぶつくさ言いながらユピテル王子のいうことを聞き、 この場を去った。

「私はまだ、ピオッジャ姫から返事を聞いていない。嫌いとも言われていない。だから、まだ諦めるわけにはいかない。だが……」

ユピテル王子は、そこまで言って口ごもった。ユピテル王子は、自信がないんだ。 自分を信じられるほどの力もない。本当はその力があるのに自分を信じられずにいる。自分を信じることは大切なのに。 だって、そうだろ? 自分の人生を作るのは自分。自分を信じないと幸せになれない。自分を信じていないのに、何かが起こるわけない。 自分を信じて行動を起こさないといけないんだ。

「しっかりしなよ! あんた王子様なんでしょ? そんなんだから、ピオッジャ姫はクロノス王子を選んだのかもしれないじゃん! それに、 あんたはまだピオッジャ姫に何も言われていないんだったら、ピオッジャ姫の本音を自分の耳で聞きに行けよ!」

悩んでいる王子にレイニィが一喝した。うん、レイニィの言う通りだ。僕たちは、肝心な本人たちから何も話しを聞いていない。
だから、何もわからないままなんだ。だから、聞きにいかなきゃ。推測とかじゃなくて、本当の真実を。

「行こうよ! 俺たちも行くからさ!」

今度はミンディが力強く言った。ユピテル王子はそんな二人を見ていた。

「私は……」
「ユピテル王子。持ってきました」

ユピテル王子が何か言いかけると、口髭ジュノーが小さな箱を持って戻ってきた。
僕たちは雨の雫を見た。青くなっているから、本物だ。あの箱の中に心の雫……もとい、雨の結晶があるんだ。 それにしても、ユピテル王子は何を言おうとしていたんだろう? 口髭ジュノーのせいでわからなかった。

「御苦労。それを、彼女に渡してくれ」

ユピテル王子は口髭ジュノーを見て、レイニィを見た。口髭ジュノーも誰に渡せと言われたかはわかったはずだ。
それ以前に、彼女はレイニィ一人しかいない。口髭ジュノーは不満そうに、箱をレイニィに渡した。

「わぁ、いっぱいある」

レイニィは箱の蓋を開けた。僕とミンディも横から覗いたけど、本当にたくさんあった。
箱の底が埋まるくらいびっしりとガラスのようなカケラが入っていた。

「ジュノー、私は時間の国に行く。彼らとともに」

ユピテル王子は初めて会ったあの臆病な感じではなく、自分の意思をはっきりと示した。
口髭ジュノーは何も言わなかった。何も、言えなかったんだと思う。

「ユピテル王子……」

そんな王子を見て、レイニィが呟いた。ユピテル王子はにっこりと笑った。

「君たちのおかげで、私はこの部屋を出られそうだ。そうだ、君の雨を見せてくれないかい? 君は雨の国の子だろう?」

この短時間でユピテル王子は凄く変わったと思う。怯えている感じもなくなった。僕は、こんな短期間でも人は変われるってことを学んだよ。
レイニィは、箱に入っている雨の結晶を、すべて口の中に入れ、体の中に入れた。その様子を、口髭ジュノーが凄く驚いていたけど、何も言わなかった。

「私は雨の国のレイニィ。私の雨、見ていて下さいね」

レイニィは、そう不敵に笑った。何だか、レイニィが凄く大人っぽくみえた。
レイニィは、星空の国・火の国のときと同じように祈りを捧げた。祈りを捧げているときのレイニィは凄く綺麗だと思う。 まるで、絵画の天使とか聖女のように。僕たちはそんなレイニィを見ていた。暫くすると祈りが届いたのか、外からザーっという雨の降る音が聞こえてきた。 口髭ジュノーは驚いてレイニィを見ていたけど、ユピテル王子は降りだした雨を窓から眺めていた。

「君の雨は優しい雨だ。ピオッジャ姫の雨とは違う」

ユピテル王子の雨を見る目は、どこか懐かしそうな目をしていた。
雨なんて、僕なんて全部同じように見えるけど、ユピテル王子には違って見えるんだ。ユピテル王子は本当にピオッジャ姫のことが好きだったんだなぁ。

「時間の国への行き方は知ってるんですか?」

レイニィは、一緒に時間の国に行くと言ったユピテル王子に問うた。 王子は頷いたけど、雨を見続けていた。火の国の王様が、雷の国は乱暴者だと言っていたけど、それは表面的なものだと思った。 だって、雷の王子はこんなにも臆病で、自然をいつくしんでいるんだ。口髭たちも見る限り、 雷の国の男たちは体格がいい(ユピテル王子はひょろって感じだけど)。 だから、短気なのも合わさって乱暴者に見えるんだ。
そういえば、聖霊様が言ってた気がする。本当に悪い人はいないって。皆、心には悪とこと善いとこを持っているって。 そして、皆何かしらの善いことと悪いことをする。本当に悪い人たちっていうのは、自分の価値や他人の価値に気付けない人だって。
僕たちは何かを捨て、成長する。何かを捨てなきゃ、何かを得られない。ユピテル王子は真実を知るため、部屋を出ることを得た。臆病だった自分を捨てたんだ。

「ジュノー、私が留守の間、国を頼む」

ユピテル王子は雨から目を離し、口髭ジュノーの方を見た。口髭ジュノーは武器を置き、跪いた。

「ジュノー、君たちは私を守るために、色々なことをしてくれたね。ありがとう。でも、もう大丈夫だ。国民が誇れるような人になるよ。そのために、真実を知りに行くんだ」
「わかりました。お気をつけて。帰ってきたら私にも、その真実を教えてくださいね。君たちにも、乱暴なことをして悪かった」

口髭ジュノーは、ユピテル王子にそう言ったあと、続けて僕たちの方を見て謝った。
きっと、全部集めてユピテル王子に渡すつもりだったんだね。口髭ジュノーも悪い人ではなかったんだ。
何だか、僕は暖かい気持ちになった。僕たちは火を起こしたこととか謝り、腕章を返した。

僕はこのあと、すぐ旅立つのかと思ったんだけど、違った。ユピテル王子はやることがあるらしく、明日出発することになり、僕たちは雷の国にお世話になることになった。 雨は長いこと降っていたけど、虹は出なくミンディは少し残念そうにしていた。
雷の国のご飯は美味しかったけど、すっぱいものが多かった気がする。美味しかったけどね。町とかにも案内してもらって、楽しい日を過ごすことができた。 何より、景色がいいよね。空の上だから。借りた部屋からの眺めも最高だった。ベットもふっかふかで、横になるとその日疲れていたこともあってかすぐに眠りに落ちて行った。



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