雫と虹


食堂には、たくさんの人がいて、朝ごはんは食パンと、暖かいスープ。何か、国によって材料も味も違うから料理って面白いよね。

「やぁ、君たちも朝食かい?」

もくもくと朝ごはんを食べていると、口髭ジュノーが料理を持ってやってきて、僕たちの向かいの席に座った。

「おはよーございまーす」

ミンディが口にパンを入れた状態で、間延びした挨拶をした。
僕とレイニィは、口の中のものがなくなってから挨拶をし、口髭ジュノーはそんな僕たちを見て「元気でよろしい」と笑った。この人の印象もだいぶかわったな。

「そういえば。おじさん、そよ風の村には行った?」
「そよ風の村か? 行っていないぞ」

僕はミストラルさんたちが話していた人が気になったから口髭ジュノーに聞いてみた。
でも、口髭ジュノーはそよ風の村には行ってないんだって。じゃあ、そよ風の村に行ったのは、きっと時間の国の人だね。

「ユピテル王子のやることって、何だったの?」

今度は口髭ジュノーにレイニィが問うた。ミンディは、凄くお腹が減っていたのか、夢中で食べている。
しかも、おかわりをしに行ったよ。僕にはあんなに食べられないなぁ。

「ユピテル王子のなさることとは、もう心の雫を探さなくてよいと言うことを、言うこと。 後は、俺たちへの謝罪であった。今まで臆病で、何も出来なくて悪かったと。王子は、君たちのおかげでずっと閉じこもっていた殻を破ることができた。 もう、心配はいらないだろう」

口髭ジュノーは何だか嬉しそうに笑った。ほら、僕の思った通り、悪い人なんかじゃなかった。
口髭ジュノーも、やっぱり夕暮れの街であったおじさんなんだ。僕は、何だか嬉しくなった。

「ユピテル王子のこと、頼んだぞ」
「任されよう!」

夢中で食べていたけど、話は聞いていたらしく、まさかのミンディがそう言った。
そのミンディの様子とか、色々なことがおかしくなって、僕たちは思わず声に出して笑ってしまった。
レイニィも口髭ジュノーも。ミンディは、恥ずかしそうに頭を掻いた。


朝ごはんを食べたあと、僕たちは身支度を整えてユピテル王子の部屋に行った。
扉をノックすると、マントを着たユピテル王子が扉を開けてくれた。もう、陰気な雰囲気はなくなっていた。頼れる王子様だ。

「おはよう。もう、準備は済んでいるのかい?」

僕たちはユピテル王子の問いに頷いた。ユピテル王子は、あの泣いていたユピテル王子とはまるで別人のようだった。
人ってこんなに変われちゃうものなんだね。

「時間の国に行くには、この時計が必要となるのだ」

ユピテル王子は、僕たちに部屋の中の机がある所まで案内すると、その机の上に置いてある目覚し時計を見せてくれた。
何か、この時計、どこかで見たぞ?

「この時計、どこかで見たような?」

ミンディも僕と同じことを思ったらしく、目覚し時計を見ながら首をかしげた。

「あ! これ、あれだよ。ほら、星空の国の帰りに見たやつ」

レイニィは、何かをひらめいたときのように手をポンとたたいた。
そういえばそうだ。まだ、そんなに日がたっていないのにすっかり忘れていたよ。
じゃあ、もしかしてあのとき、時間の国に行くことができたのかな? なんか、ちょっと勿体無かったなって思った。

「そうか、見たことがあるのか。この時計は、色々な場所にあるからな。 それで、行く方法とはこの時計にさわり、ジリジリと音が鳴り響くのを待つ。今は朝の八時を過ぎた所だから、時計は九時に音が成る様にセットしたよ」

形も目覚まし時計なら、その行き方もまるで目覚し時計みたいだな。
でも、何かちょっと楽しくなってきた。僕は、森以外の所を知らなかったし、森から出る気もなかった。でも、今はこう思うんだ。 色々な所に行けてよかったなって。この旅を終えて、森に帰ったとき、僕は何か変われるような気がした。

「時間の国に、行ったことがあるの?」

ミンディがユピテル王子に問うた。ユピテル王子はミンディの方を向いた。

「いや、行ったことはないよ。この時計は、ピオッジャ姫の所にあったものを持ってきたのだ。 でも、君たちがこの国に来なきゃ私は一人で時間の国に行こうとは思わなかったよ」

ユピテル王子はそう言って笑った。
それから、ユピテル王子は雷の国のことについて色々話してくれた。

「ユピテル王子とピオッジャ姫の邪魔をする人はいなかったの?」

レイニィが、二人は結婚するはずだったっていう話を聞いたときに、問うた。
そういえば、どうなんだろう。何かが変わるってことは、それによって有利になる人もいれば、不利になる人もいる。 雷の国と雨の国が一緒になるって決定したときに、誰も邪魔はしなかったのだろうか?

「何人かいたよ。国が一緒になっても、なんの利益を得られない人たちもいたからね。結構、板ばさみにされていたよ」

やっぱり、いたんだ。ユピテル王子はため息をついた。
この話を聞いて、僕は色々なパターンがあることに気づいた。本当にピオッジャ姫とクロノス王子が愛し合ってるパターンと、クロノス王子は誰かに頼まれたパターン。 ちょっと、疑いすぎかな?

「そういえば、僕。夢でピオッジャ姫に遭いました」

僕がなんとなく、ユピテル王子に言うと、ユピテル王子は凄く驚いた顔をした。

「ピオッジャ姫は、何か言っていたかい?」

同時に少し、嬉しそうにも見えた。だから、昨日の夢の内容をユピテル王子にも教えた。
だけど、ユピテル王子でも、そのピオッジャ姫の我侭っていうのはわからなかった。これは、本人に聞かなきゃだめなのかな。
僕たちは色々な話をしていたら、あっという間に時間は過ぎ、九時近くになっていることにレイニィが気づいた。 急いで時計を掴み、音が鳴り響くのを待つ。少し、ドキドキしている。時間の国は一体どんな感じなんだろう。

「皆、準備はいいかい? そろそろだ」

ユピテル王子が、時計の秒針が八の数字を指したときにそう言った。
僕はもう一度心の準備をした。時計の音が鳴り響いた。ジリジリと。



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