大空のむこう


「……あんたら、誰?」

その部屋には案の定、写真に写っていたつまらなさそうな顔をしている少年、サンがいた。

「君がサンくんだね? 助けにきたんだ」

レンさんはそう言い、サンに手を差し伸べた。
サンはその手を見ていたが、掴まなかった。

「父さんは? 父さんは来てないの?」
「ここには私たちが勝手に来たんだ。さぁ、誘拐犯が来る前に帰ろう」

レンさんは、サンの腕を掴み立たせた。が、サンはその手を振りほどいた。
レンさん少し驚いてるぞ。

「いやだ! 帰らない!! 父さんがホワイト・ブルーに行っていいって言うまでは帰らない!!」

サンはそう言い、その場に座り込んだ。
ストライキって言葉が俺の脳裏を過ぎった。
って! ちょっと待て!! 今、この子ホワイト・ブルーって言ったよね!?
言ったよね? 皆も聞いたよね!?
でもさ、何かおかしいよね? 何か…うん、おかしい。

「レンさん、何かおかしくないですか? この子、誘拐されたんじゃ……」

俺はレンさんの顔を見た。
レンさんも不思議そうな顔をしていた。
うん、さすがレンさん。おかしさに気付いたんだ。

「あぁ。これじゃあ、つじつまが合わないぞ。サンくん……もしかして、君は自分から誘拐されたのかい?」

レンさんは何かを問いただすように、サンを見た。
サンは暫く黙っていた。

「そうだよ、俺が誘拐犯に頼んだんだ。あ、誘拐犯って言っても別に犯罪者とかじゃないからなっ! 俺の友達だからなっ! 駅で働いてるんだ」
「ここにいたおじいちゃんはどうしたの?」

俺は首をかしげた。
何か、レンさんの推理間違ってる?
俺はちらっとレンさんを見た。
あ、慌ててる。といか…焦ってる?

「俺と友達で、ここ偵察しにきたとき……ちょうど1週間くらい前かな? 死んでたんだよ、で警察に連絡したんだ。何か、孤独死? そんなやつだって。で、その後この部屋のゴミをどかしたの」

……レンさん、ダメダメじゃん。

「いやーまさか、サンくんが自分で計画したことだとは思わなかったな〜〜」

レンさんが、ごまかすように笑った。
まぁ、推理はダメだったけど、サンの居場所がわかったからいいけどさ…。

「何でお父さんはホワイト・ブルーに行っちゃいけないって言ってるの?」

このさい、レンさんの失敗はほっておこう。
問題はこっち。
ホワイト・ブルーは俺の尊敬する先生がいくし、何より俺が行く学校だから絶対いい学校っていう自信がある!

「……父さんが“空の果て”何てないって言うんだ……。俺は“空の果て”に行きたいからホワイト・ブルーに言っていろいろと学びたいのに。でも、そんなものはないから行くなって……」

……。
………は?

「何だって!!!!?」

俺は驚きのあまり声が裏返った。
皆、驚いていた。
うん、俺自身も驚いた。

「“空の果て”は絶対ある!! 何考えてるんだ、君のお父さんは!! バカじゃないの!!? ふざけんなよ!! “空の果て”を否定するなんて!! 俺が説得してやる!! 俺がホワイト・ブルーに行けるようにしてやる!!」

俺の声が響いた。
サンは、ただ驚いた顔で俺を見ていた。

「そうだな、私も手伝うよ。だから、帰ろう。ここは臭くて鼻が麻痺しちまうよ」

レンさんが笑った。
そして、もう一度サンに手を差し伸べた。
今度はその手をとった。
そして、歩き出した。



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