大空のむこう


「やぁ、いらっしゃい。遠いところ遥々ご苦労であった。おや? そっちの子は?」

だんな様が言った。
偉そうで高そうな椅子に座っているけど、優しそうな人だ。ふとってるけど。
俺は一応だんな様に軽くペコッとお辞儀をした。

「私の助手です。それで? 息子さんの行方は?」

レンさんが仕事モードに入った。
ふぁ〜仕事モードのレンさん、ちょっとカッコイイかもしれないなぁ。
誰もレンさんが機械系に弱いってわからないよっ!

「サンは…1週間前に急にいなくなったんです。それで3日前に身代金を要求する電話がかかってきて…。警察には連絡したのですが、結局見つからずに時が過ぎてしまし、そこであなたの噂を聞いてあなたに連絡したのです」

だんな様は深刻そうな顔で言った。
レンさんって…結構有名な人だったんだなぁ〜。
俺の噂なんて全然ないからちょっと羨ましいかも…。

「わかりました。身代金はいつまでに渡せと?」

レンさんがいつの間にかメモ帳とペンを手に持っていた。

「……明日までなんです。場所はサンシャイン駅の近くとしかまだ言われてなくて……」

サンシャイン駅ってことは俺たちが下りた駅だよね?

「まだ言われてないって事は…また電話か何かくるんですか?」

レンさんがメモを取りながら言った。
だんな様はコクッと頷いた。

「電話をすると言っていました…」
「息子さんを誘拐した犯人の外見とかわかりますか?」
「それが…20代の男としか…。ちょうどあなたくらいの年齢だと思います。実際何故か犯人が年齢だけは教えてくれたんです」

だんな様がため息をついた。
ホント、何故年齢だけ教えてくれたんだ? 変な犯人。
そういえば俺がレンさんと思って間違ってついていっちゃった人も20代くらいだよねー。

「……息子さんは、まだ無事なんですよね……?」

レンさんがおそるおそる聞いた。
だんな様はゆっくり頷いた。

「3日前ファックスで写真も送られてきたんです。おい、お前写真を」
「かしこまりました」

だんな様にそう言われ一緒に入ってきたメイドさんが電話の傍にある一枚の写真を取り、レンさんに渡した。
俺はその写真を隣から除きこんだ。
1人の男子が無関心でつまらなそうな顔で椅子に縛り付けられている。
うん、このつまらなそうな顔は間違いなく電車の中でレンさんが見せてくれた子の写真だ。
俺はもう一度その写真をよく見た。
右側の窓に踏み切りみたいのが写っている。踏み切りって事は駅の近く…?

「レンさん、これ駅の近くですか? 踏み切り写ってるし…」

俺はレンさんの顔を見た。レンさんはにっこり笑った。

「さすがだな、クウ坊。そうだね、これは駅の近くと考えていい。あの、電話の内容を録音したものとかありますか?」

レンさんはだんな様に聞いた。
俺はレンさんとだんな様を交互に見た。

「うちの電話は内容を録音できるやつだから、電話の中に入ってると思うが…」

だんな様はまたメイドさんに今度は電話を取るように頼んだ。人使いが荒い人だなぁ〜。
メイドさんは文句も言わずにすばやく電話を取り、ボタンを押した。
何のボタンを押したかは俺の方からは見えなかった。
午後4時5分ですという電話の声の後に男の声がした。

『お前の息子を預かっている。今から4日後までに身代金1億を用意しろ。引渡し場所はサンシャイン駅の近くだ。詳しい事はまた電話する。……ピー……』

男の声はそこで終わった。最後にファックスを送る音がした。
微かだが、男の声に混じってカンカンカンという踏み切りがしまるような音が聞こえた。
電車の通る音もした。

「クウ坊、聞こえたかい? 微かだが、踏み切りと電車の音がする」

レンさんが言った。俺は頷いた。

「私には何も聞こえないが…」

だんな様が少しどもりながら言った。そして耳を澄ました。
その時、電話が鳴った。



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