大空のむこう


電話はだんな様がとった。

「もしもし……?」
『よう、金は用意できたか?』

電話は誘拐犯の男からだった。
だんな様は電話の内容を俺たちにも聞こえるようにした。
レンさんが手に持っていた手帳に何か書き始めた。
そしてそれをだんな様に見せた。

息子さんが無事かどうか聞いてください。

その紙には綺麗な字でそう書かれてあった。
だんな様はその紙を見て頷いた。

「息子はっ!? 息子は無事なのか!!?」

おぉ。なかなかの芝居だよ、だんな様。
誘拐犯はこっちに俺たちがいる事に気付いてないようだ。

『なぁに。心配するな。無事だよ』

誘拐犯の声が笑っている。
きっと誘拐犯はいやらしい笑みをしてるのかなと俺は思った。

「息子の声を聞かせてくれ!! お願いだ!!」

だんな様は電話にむかって悲痛な声で叫んだ。
これは…芝居じゃないなぁ…。
電話の向こう側は暫く黙っていた。
そして…。

『父さん?』

男の子の声がした。

「サンか!!? サンなのか!!?」

だんな様は嬉しそうな声を出した。
顔も嬉しそうだった。

『そうだよ。ここ臭くて嫌だ。ゴミ捨て場が近いみたいなん…』

男の子の声はそこで途切れた。
誘拐犯に余計な事を言ったので口をテープかなんかで塞がれたみたいだ。
男の子の声は…あんまり怖がってはいなかった。何か、棒読みって感じ?

『今日の夜11時にサンシャイン駅の踏み切り近くまで、指定した金を持ってこい。わかったな?』

男の子の声から誘拐犯の声に変わった。
電話はそこで切られた。
自分で「わかったな?」と言っておきながら、だんな様の返答も聞かずに切るなんて…何てせっかちな奴なんだ!!
でも、場所は大体わかった。
駅の近くでふみきりの音が聞こえ、ゴミ捨て場の近く。
それもそーとー臭いらしい。
これは…行くっきゃないよね?

「クウ坊!!」

俺はいきよいよくだんな様の部屋を飛び出した。
後ろでレンさんが叫んでいる。

「クウ坊!! 1人でいくな!! 帰ってこれなくなるぞっ!!」

俺はその叫びでピタッと走るのをやめた。
そうだ…俺は方向音痴なんだ。最高級の…。

「俺を一緒に行こう。これで犯人の場所が見つかったらラッキーだな」

レンさんは、俺の隣に来て二ヒヒと笑った。
そして2人で手を繋いで駅の方に行った。



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