小説家と少年


あの後、俺はてっきり2人は離婚するものだと思っていた。
だが、違った。どうやら目が覚めた貴一が「お父さんも一緒じゃなきゃ嫌だ」と言ったらしい。
貴一にいたっては、傷は残るものの命に別状はなく、あれから48時間後に目が覚めた。
そして、天沼家は今回の出来事やDVのこともあり、精神を癒すために母方の田舎で農業をやっている実家に引っ越すことになった。
そこは、自然がとても豊かで祖父祖母や天沼さんの兄夫婦もとても優しい人だと貴一から聞いた。
その貴一だが、後遺症も残らすあいかわらずうちに来てはホットミルクを飲んでいた。


そして、ついに貴一との別れの日がやってきた。
家族は挨拶にやってきた。迷惑かけたことを謝り、なにより俺に感謝していた。

「おじちゃん! サインちょうだい!」

貴一の手には俺が書いた本があった。まだ読んだ形跡はなかったが、大切そうに貴一は持っていた。
もちろん、俺はその本にサインをしたさ。
まさか、こんな子供にサインをねだられただけで、こんなに嬉しく思うなんて。俺は少し照れた。

「大きくなったらおじちゃんの本、読むからね」

貴一はそう言い、俺に抱きついた。

「俺も、お前の歳で読めそうな本を書くよ」

俺は貴一の頭をなでた。そこには、あの時の痛々しい傷痕があった。





その後、俺はこの家族がどうなったかは知らない。
きっと、元気でやっているのだろう。
貴一から一度きた手紙にそう書いてあった。返事は出していないが、俺はそれを信じるよ。




それから、俺がまた小説を書けるようになり、ベストセラーになるのは別の話。



そして、もう1つ……。



何年後かに売れる小説家となった俺のとこに、大学生になった貴一が俺のファンだという可愛い彼女を連れてくるのも、また別の話。




END




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完結しました!! 長い間放置しててすみません。
終わらせてあげようと思って、当初の予定より短くしました。

書くか書かないか迷っていたんですけど、この2人好きなんです。
それにやっぱり最後まで書きたかった!!

リレーでは、ネタぎれを起こしたので私が全部書きました。
1話めは奥美様ですけど。
とにかく完結しましたー!!

2008.3.21