小説家と少年


だが、問題は起きた。
これは家族の問題だからと俺はあまりかかわらないようにしてきた。
貴一が毎日家に来ることから、もう十分かかわっているかもしれないが、それ以上はかかわらないようにしてきたんだ。
そにかく、その日の夜は隣が騒がしかった。
天沼家は一番はじだったので、気付いたのは俺だけだったのだろう。
次に起きたのは、俺の家のドアをうるさく叩く音だ。
ドアを開けてみるとそこには泣いている貴一がいた。

「お母さんが、お母さんがっ!!」

貴一は泣きわめいていた。
そして、俺にひたすら助けを求めようとしていた。俺は一瞬で状況を理解した。

「落ち着け! すぐ行くから!!」

俺はそう言い、いったん部屋の中へと戻った。
やかんを火にかけていたからだ。お湯は、まだ沸いてはいなかった。
火を消し、部屋を出ようとした時にものすごい音がした。
何かが何かにぶつかる音だ。その後、すべての音がやみ、しーんと静まりかえった。
俺は嫌な予感がし、急いで隣へ向かった。
貴一はもう家に戻ったのか廊下にはいなかった。
隣はドアが開けっぱなしになっていた。そこで、俺が見たものは……

「貴一!! 貴一!!」

叫ぶ傷だらけの母親と、いっきに酔いが覚めたのか呆然とする父親。
そして……血を流して倒れている貴一の姿だ。
あぁ……さっきの音はとめに入った貴一が突き飛ばされて頭をぶつけた音か。

「貴一!!!!」

天沼さんはひたすら叫んでいた。
血をとめようと貴一を抱きあげ、頭に白いハンカチやタオルのようなものをあてているが、その白は血で赤くそまりそれでも貴一は覚まさない。血もとまらなかった。
こうゆう時はどうすればいい? 突然のことで俺の脳内はフリーズしたが、妙に落ち着いていた。
そう、俺は119に連絡をした。救急車を呼んだのは初めてだった。
救急車はすぐに来たが、それでも貴一は目を覚まさない。



そして、その場には俺だけが残された。
俺があの時すぐに行っていたらこんなことにはならなかったのか? 
だから、俺はかかわりたくなかったんだ。こんな俺には貴一の無事を祈ることくらいしかできないから。



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