TIME LIMIT


トキと名乗った変な少年は、終始キョロキョロしながらごきげんに鼻歌を歌っていた。おせじにも上手いとはいえない鼻歌。
正直、迷惑このうえないが、話し掛けるともの凄い勢いで話し出しそうなので放っておいた。
それこそ、こんな変な奴と並んで歩くことで、誰かに見られていないかが不安であった。涼はいつもより早足で家に向かう。

「涼、何か歩くの速いでー?」

トキは鼻歌を歌いながらついて来る。涼はもちろん無視し、そこの角を曲がるまでの辛抱だと言い聞かせた。
だが涼は耐えられなかった。近所の目が。変な噂がたつのが。涼は、ついには走り出し、大急ぎで角を曲がった。

「涼!? どないしたん!?」

トキが歌うのを止め、走った。涼は、トキと出会ったことを後悔した。もう絶対に変な奴には関わらないと心に誓う。
角を曲がると、涼の家がある。どこにでもある普通の家だが、庭付きで家もそれなりにデカイ。涼は家の前で止まった。トキも立ち止まる。

「ほえー、ええ家に住んでるんやなー」
「絶対に荒らすなよ」

家を見上げるトキに釘を刺す涼。2人はそのまま家の中へと入った。
涼の家は珍しく、2階がリビングとなっているため、涼はトキを廊下で待たし、1階にある自分の部屋で着替えを済ませる。
制服を投げ捨て、ジャージに着替える。着替え終え、廊下に出て、トキの顔を見て再び溜息をつく。

「なんやねん。あ、上に行くん?」

階段を上がる涼を見て、付いていくトキ。家の中だっていうのにまだ黒い傘を手にしている。
トキは何かものめずらしいものでもあるのか、キョロキョロと周りを見渡している。

「あれ、涼だ。そっちの人は誰?」

リビングダイニングに入ると、涼の弟、梗がパジャマに身を包み、ソフアに座ってテレビを見ている。
特に何も面白いのがやっていないのか、リモコンでテレビを消した。

「あー、うん。俺の知り合い。気にするな」
「トキやでー。よろしゅうなー」

涼が横目でトキを見ると、何がそんなに楽しいのかトキはニコニコを笑っていた。涼は再び溜息をつく。

「まぁ、いいや。こんな奴は放っておいてお前、もう寝てなくて平気なのか?」

涼はトキから目を離し、梗を見る。

「うん、熱は下がったから明日は学校に行けるけど、涼の方こそどうしたの? さぼり?」
「いや、違うから。何か不審者が出たから学校閉鎖。PTAから何か来たんだってさ。って、お前! 家捜しするな!!」

良い音がした。涼が、ごそごそと家捜しをしていたトキの頭を叩いたのだ。まるで、トキの頭はからっぽかのような良い音がした。
トキは痛かったのか、叩かれたところをさすり、涼を睨む。

「涼! 暴力反対やで! 痛いやん!」
「お前がとくなことをしないからだ。ったく、父さんと母さんに見つかったら何て言われるか……」

涼はトキを家の中に入れたことを後悔した。
トキはずれたシルクハットを直し、何事も無かったかのようにニッコリと笑った。

「そいや、涼のご両親は何やってる人なん?」

にっこり笑ったと思ったら、今度は出窓に置いてある家族写真を見ている。梗がテレビをつけた。

「父さんはパイロット。母さんは客室乗務員だよ。だから、海外とかに行っててよく留守してる。おい、梗! お前、テレビの音デカイぞ!」

涼が話していると、梗が突然テレビの音を上げた。
涼が注意し、テレビを見るとちょうどニュース番組がやっており、ここ最近起こっている子供失踪事件について話している所であった。
トキもテレビを見た。

「……消えた子供達は未だ見つかっておりません。また、不審な男が目撃されており、警察はこの間の時計搭の火事と何か関係がないか調査しています……」

淡々とした口調で語るニュースキャスター。ニュースキャスターがまだしゃべっているというのに梗はテレビを消した。

「俺、このニュース嫌い。涼のせいで、テレビの音が聞こえないから音量あげたのに。しなきゃよかった」

梗が、拗ねたように、しょんぼりしたように膝を抱える。
涼も、梗と同じくあのニュースは嫌いだった。警察がちゃんと調査してるのかよとまで思っていた。

「涼、時計搭ってなんなん?」

トキが不思議そうな顔で涼を見た。涼は、トキの方を見て、外を見る。

「興味があるなら見せてやるよ。うちから見えるから」

涼はトキをベランダへと連れ出し、西の方を指差した。
トキはしげしげとベランダに干してある洗濯物を見ていたが、涼が指を指したこよによって、西の方を見た。
下を見ると、坂があり、涼の家は高台にあることがわかる。
その様々な屋根の中、距離はあるだろうが、焦げた時計搭がひっそりと建っている。時計は、何時をさしているかは見えないが、動いている気配はない。

「あれが時計搭だよ。この前、原因不明の火事が起きたんだ。何か爆発みたいな感じで。 でも、あそこには人はいないから放火だって噂。前は自由に出入りできたんだけど、今は立ち入り禁止なんだ」

涼は、話が終わると洗濯物を取り込み始めた。トキは時計搭をじっと見ている。涼は、そんなトキを見て何も思わなかった。
チラリとトキが肩から下げている大きな時計を見たが、トキを遭った時刻から動いていなかった。



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