TIME LIMIT


次の日の朝のことである。学校は普通にあった。梗も風邪が治り、一人で先に学校に行った。 トキも既に出かけていたらしく、涼はなぜ自分を起こさなかったのかと頭にきたが誰もいなかったので怒りをぶつける相手がいなかった。
寝坊した理由は、昨日遅くまでインターネットで遊んでいたせいだ。いつもなら目覚し時計が起こしてくれるのだが、涼は目覚まし時計が壊れていたことをすっかり忘れていた。 完璧な寝坊である。そこで、涼はとんでもない行動にでた。

「おい、鈴木。これは一体何なんだ……?」

涼の机の前で、仁王立ちで涼を見下ろす担任。涼の机の上には普通ではありえないものが置いてある。
涼は、冷や汗をかき、朝の自分の行動を後悔した。

「えっと、フライパンです……」

涼は担任の顔が見られなかった。
クラスメイト達がクスクスと笑っている。担任は大きく溜息をついた。

「先生! 聞いてください! いつもはこんなんじゃないんです! 知ってるだろ!? 今日は、たまたま寝坊して……誰も起こしてくれなくて、 目覚し時計も壊れていて……。遅刻しそうだったから、せめて授業には間に合うようにと、フライパンを道で……。朝ごはんを食べたんです!」

必死に訴える涼。だが、クラスメイト達はクスクス笑ったり、声を出して笑ったり。
担任にいたっては、呆れ返っている。

「わかったよ。次は持ってくるなよ。さーて、お前達―。一時間目の準備しろー」

チャイムがなり、担任は出席簿を持って教室を出て行った。
その瞬間、山田が席を立ち、涼の机に近づいてきた。その顔はニヤついている。

「鈴木、お前……マジ最高だよ!」

顔が引きつり、笑い出すのを堪えている。涼はそんな山田を見て、渋い顔をした。

「うるさい! 持ってきちゃったんだからしょうがないだろ!」

イラつく涼。山田はついに噴出して笑い始めた。

「まーま、そんなに怒るなよ。今日の給食教えてやるからさ」
「何だって!? お前、今日の給食丸秘メニューを知っているのか!」
「ふふん、俺を何だと思っているんだ。でも、どうしようかなー」

山田は可愛い子ぶり、涼をじらす。本日の給食は月に一度の丸秘メニュー。誰にも知らされてなければ、献立表にも載っていない。給食に命をかける涼にとっては、一番興味深い日だ。

「お願いだよー、教えてくれよー」

涼は両手を顔の前で合わせ、一生のお願いのポーズをとる。山田はニヤリと笑った。
「しょうがないなぁ。学級委員のよしみで教えてやろう。 今日の給食のメニューは! グラタン! ポテトサラダ! スープ! 冷凍ミカン! そしてミルメークつきの牛乳だぁあぁ!!」
「うぉぉおぉお!! 何だそれ! 最高のメニューじゃねぇぇか!!」

涼のテンションがあがり、嬉しい叫びが木霊する。
クラスメイトたちも山田の話を聞いていたのか、ざわざわしている。

「それ、本当の話かよ?」

涼の前の席の宮本が、ズズイと身を乗り出した。
宮本はジャージ姿で、着替えていたのか制服を鞄の中におしこんでいる。

「あ、次体育か。俺も着替えないと。でも、宮本っちゃん! 俺の言ったことは本当だぜ。母さんが給食室でパートしてんだ」

山田はそう言って、自分の席に戻った。涼も急いでジャージに着替える。
とりあえずフライパンはロッカーにでも入れておこう。教室の中を見渡すと、すでに移動を始めている生徒もいる。 時計を見ると、ホームルームが終わってから既に五分たっていた。涼は、着替え、山田と宮本とともに体育館へと向かう。

体育館までは少し距離がある。渡り廊下を通っていくため、ゆっくり歩いていると移動時間の十五分を過ぎることもある。 それは涼たちが朝速く来て、ホームルームの前に着替えていないのがいけないのだろうが。 どちらにせよ、一時間目の体育の授業は体育の先生が遅刻してくることも多い為、涼たちは急いでいたが、そんなには急いでいなかった。

「確か、今日ってバスケの試合だっけ? てか、先生は遅刻せずに来るかな?」

宮本が大きく伸びをした。

「確実にまだ来てないだろうな。あ、梗だ」

涼がはははと笑い、横目に梗の姿が目に入った。体育館へ行く途中の渡り廊下に、理科室や技術室が面していて、 梗は、クラスメイトたちと理科室の前でたむろしている。梗も、涼に気付いた。

「お前、何やってんだ?」

涼は目があった梗に声をかける。
あきらかに梗たちは渡り廊下を歩く人たちの邪魔になっている。

「先生がまだ来てなくて理科室が開いてないんだ。今日は実験のはずなのに」

梗は溜息をつく。校舎へと続く渡り廊下を見ても、それらしい人物の姿はない。

「何だ。そんなことか。だったらピッキングで開けちゃえ……って! 鈴木! 何で殴るんだよ!?」
「俺の弟に変なこと吹き込むな」

山田が言いかけている最中に、すぐさま涼の鉄拳という名のツッコミが入る。 梗たちは、そんな騒がしい上級生の姿を見て、ポカンと口を開けた。梗に至っては、若干恥ずかしそうに見える。

「おーい。お前達、喧嘩はいいけど。体育の先生が職員棟から出てきたぞ。体育館に向かってた」
「え!? うわっ! 早くしないと!!」

宮本が話しに割り込み、山田がすっとんきょうな声をあげる。
そんな時、一時間目の始まりをつげるチャイムがなる。

「うわー! うわー! 遅刻! 走れー!! 見つからないようにこっそりと!」

山田の叫び。それを合図に涼と宮本は走り出す。梗が呆れて溜息をついたのを知らずに。
その直後のことだ。白衣をきた理科の先生が急ぎ足でやってきて、理科室の鍵を開けた。

ふらりとトキが学校にやってきたのは誰も見てなかった。



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