TIME LIMIT


轟々と燃える理科室。梗たちは何も出来ずに閉じ込められていた。

『後、十秒……』
「え? 森川、何か言った?」

逃げ場をなくした生徒達は、理科室の隅の方に固まっていた。あまりの恐怖で泣き出す子もいれば、呆然と炎を見ているものもいる。
そんな中、皆とは少し離れた場所にいる梗たち。梗は、あの時聞いた声を聞いた気がした。

「え、僕は何も言っていないけど……何か聞こえた……?」

森川は、煙を吸い込んだらしくゴホゴホと咳をしている。炎は天井まで達し、天井からパラパラと何か落ちてくる。
そんな時、梗たちの真上で爆発音が響く。小さな悲鳴をあげる今井と森川。上を見ると、壊れた時計の破片が落ちてきた。 時計が爆発したのだろうか。梗は、昨日の出来事を思い出していた。
時計が爆発したせいか、火の勢いは増した。今にも天井の柱が落ちてきそうで、今井と森川はそれに気付いていない。

「今井、森川! ここにいたら危ない! 俺たちも先生たちの所に行こう!」

梗は立ち上がり、震える二人を立たせようとするが、腰が抜けているのか二人は立てなかった。

「ダメだ。ダメだ……、どこにいたって俺たちは……」

目に涙を浮かべ、恐怖に顔を歪ませる今井。梗はきっと睨みつける。

「何弱気になってんだ! 来月発売のゲームを買うんだろ!?」
「鈴木! 早く!!」

先生の呼ぶ声。天井から再び、パラパラと何かが落ちてくる。
柱の破片か。柱が落ちてくる。そう感じたときにはもう既に遅かった。

「鈴木!!」

先生の叫ぶ声。梗は、二人を守るように覆い被さり、目を閉じた。
だが、柱は落ちてこなかった。

「あれ?」

何も感じない。梗は目を開け、自分の上に何かがあるのを感じたが、不思議とそれは熱くない。

「危機一髪やったな!」

聞き覚えのある声が上から降ってくる。
首を捻ると、自分たちを守るように覆い被さり、背中で柱を止めている。

「と、トキ!?」

驚きの声をあげる梗。燃えるトキの姿。柱は真っ二つに折れた。




涼は信じられない光景を見た。轟々を燃える理科室。
こんな中に、人が……ましてや自分の弟がいるなんて信じたくない。涼はいつのまにか理科室に向かって走り出していたが、誰かに服を引っ張られた。
「山田、宮本、離せ! あの中には梗がいるんだぞ!!」

涼は、服を掴む二人の手を振り払おうとしたが、二人は離さない。

「何言ってんだ! もう少しで消防士の人がくる! 大体あんな炎の中に飛び込むなんて無謀すぎるぞ!」

山田が思いっきり涼を引っ張り戻す。確かにサイレンの音は聞こえる。その音は段々と近づいてきている。

「鈴木は知らないかもしれないけど、火事ってすげー怖いんだぜ」

今度は宮本。少し顔がひきついっている。炎の勢いがまた強くなる。

「梗!!」

涼の額に汗が滲む。手も汗でびっしょりだ。目に炎が移る。山田や宮本の目にも炎が揺らめく。さっきまでは普通だった理科室。
一時間目の終わりをつげるチャイムがなっても誰も出てこない。中には四十一人の人がいる。
消防自動車がやっと到着し、消火作業を始めるが、火の勢いは治まらなかった。



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