TIME LIMIT


三人は家の戸締りをし、時計搭に向かった。トキが自転車を持っていないため歩きだ。
何が起こるかわからない。涼は、自分の身を守るために、フライパンを持っていくことにした。

「ええ? 二人供、絶対ワイから離れたらあかんで?」

トキは時計搭までの道のりで何度もそう言った。二人は初めの方はまじめに聞いていたが、あまりにも何度も言うので聞きあき、最後の方は殆ど聞いていなかった。
しかも、トキは時計搭の前に来ても同じことを言った。しかも、「大事なことだから三回は言うで?」と言って三回も。 二人は適当に返事をし、トキに続いて火事があったという時計搭に足を踏み入れた。立ち入り禁止のロープを超えて。

「その時壊屋ってのはどこにいるの? てか、どんな奴?」

梗がキョロキョロと周りを見ながら問うた。
随分と焼け焦げていて今にも天井が落ちてきそうだ。立ち入り禁止の理由もわかる。

「多分上やろうな」

上を見上げるトキ。三人は階段を上り、上へと急ぐ。一番上まではだいぶある。
今にも崩れそうな階段。火事がどれだけ酷かったかを物語っている。

「わっとっと」
「気をつけろよ」

梗が掴んでいた階段のテスリが崩れ落ちた。
トキは平然と上へと上っていく。

「なぁ、時壊屋はまだなのか?」

ある程度階段を上ったあと、涼が問うた。もうだいぶ上の方に来た。

「もう少しや」
「僕に何のよう?」

突然声が聞こえた。姿は見えない。三人は最上階を目前にしていた。

「その声はカイ! 姿を見せるんや! どうせ、ワイがここに来た理由なんてわかっとるんやろ!?」

トキが辺りを見渡しながら叫ぶ。それをバカにするかのような笑い声。

「さすがトキだね。わかってるじゃん」

ぬっと最上階に現れた少年。涼はその少年にトキと同じものを感じ取った。
赤いネクタイに黒いローブ。そのローブのフードを深く被り、背中には何かを背負っている。きっとトキと同じで多分、大きな動かない時計だろう。

「そっちの二人は始めましてだよね」

カイと呼ばれた少年は自分のことを見ている涼と梗を見た。

「僕はカイ。時壊屋だ」

緊張が走る。
トキの探していた人物が目の前にいる。梗はカイを睨んだ。

「おい! お前のせいで俺たちは大変な目にあったんだぞ!」

梗は怒っていたが、カイはにっこりと笑った。

「それはごめんね。でも、これしか方法がなかったんだ」

カイは梗からトキへと視線を移す。

「トキ。君は今やっていることに矛盾を感じないかい? おかしいと、変だと思わないかい?」

上からトキを見下ろすカイ。トキは顔をしかめた。

「何言うてるん? ワイらははだ書かれたことをやればええだけやろ? おかしいのはあんたはんや。 あんたはんのターゲットは一人やろ? なんなん、あれ。何であないなことしたん?」

いつもはおちゃらけているトキがまじめな顔をしている。涼にはそれが印象的だった。

「うるさいな、トキは。君にも期待したのにその言い方だと違うみたいだね。でも、僕はおかしいと思う。未来は変るものだろ?」

カイはトキを睨む。暫く二人の睨み合いが続く。
カイはクスリと笑い、ローブのポケットから懐中時計を取り出し、時刻を見た。

「あと一分くらいだね」

パチンと懐中時計のフタを閉める。
梗は何かにはっとし、突然涼の服を引っ張った。

「何だよ、服伸びるだろ」

梗の手を払いのける涼。
だが、涼は、梗の怯えた顔が気になった。

「涼、この人の声、一緒なんだよ。理科室が火事に、庭に穴が開いたときに聞こえた声に……だから……」

涼はトキと顔を見合わせた。何だかとても、嫌な予感がする。

「もしかして、ここが爆発!?」

物事は二度あることは三度あると、よく言ったもので、これが三度目。
涼の声が響く。トキはカイを睨みつける。

「カイ! あんた! 何考えてるん!? こんなのシナリオにはない! もしかして、火事を起こしたのも!!」
「そうだよ。ここの火事もシナリオにはない。だって、未来は変るものだし、トキもシナリオに書かれていないことをやっているよ。それじゃあ、さよなら。トキ」

カイはにっこりと笑って、目覚し時計を投げた。
時計は涼たちの後ろに落ちて、爆発した。

「うわっ!? まだ一分たってないぞ!?」
「階段がっ!!」

涼が叫び、梗も叫ぶ。階段が崩れ落ちた。
トキは再びカイを見るが、カイの姿はどこにもない。

「うわっ!? 足元が!!」

梗の足元の階段が崩れ落ちる。

「早く、上へ!!」

涼の掛け声のもと、三人はいっせいに上に行く。時計の歯車がある、一番てっぺんの部分。
この時計はもう動いてはいない。火事の時に動かなくなった。涼はキョロキョロと辺りを見渡した。

「あれだ! あそこからって……ムリだ……」

涼は、人一人が入れる窓を見つけた。随分前に、ここから外の時計を掃除している人をみたが、外には階段もはしごもない。 ロープなんてものは持っていない。もし、ここから外に出ても何も出来ない。飛び降りるにしても、この高さでは死んでしまう。
ぐるぐると助かる道を考える。何か道はないかと。急に静かになった。カイがカウントダウンをしてからちょうど一分たった。

「あ、タイムリミット……」

梗が呟いた。



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