シャウラ
姉ちゃんは暫く何も言わなかった。誰も何も言わなかった。オリオンも姉ちゃんが話すのを待っていたんだ。
「……シャウラは何も知らないのよ。
大人たちがいた時村はどうだった? あの空腹を覚えている? 子供たちに働かせて自分たちは何もしない。
そんな大人たちだったのよ?」
姉ちゃんがそう話し出した時、姉ちゃんはどこか悲しそうだった。
どうして、そんな顔をするの? 俺はそんな大人たち知らないよ。
「確かに村は寂れてたけど、そんなの、
大人たちはちゃんと働いていたよ! 確かにいつも腹減ってた気がするけど、俺たちの面倒を見てくれてたよ!」
食い違いがありすぎる。俺と姉ちゃん。見ていたものは同じだと思っていた。でも、違かったんだ。
何でこんなふうになっちゃったんだろう。
「もしかして、大人たちは、シャウラとシャムで違う対応をしたのかも……」
オリオンがボソっと呟いた。一体何が正しくて、間違っていて……俺は何も信じればいいの?
もう、自分の記憶も信じられない。どの記憶のページをめくっても、姉ちゃんが言ってたような大人たちはいない。
でも……そのページには姉ちゃんがいない。俺は何を信じればいいの?
「シャム。あのペンは誰の物? シャムが描いてないとすると、持ち主が描いたんだよね?」
オリオンがそう、姉ちゃんに問うた。俯いていた姉ちゃんはオリオンを見た。俺も、ぼんやりとオリオンの問いを聞いていた。
不可解なことが起こった。姉ちゃんが口を開いた瞬間だ。ピカっと光ったと思ったら、物凄い雷の音がした。
俺は飛び上がるくらいびっくりした。おかしいな。晴れていたのに。
「今のは何? 雷?」
オリオンが呟いて、空を見上げた。あの感じの音はどこかに落ちたのだろうか。村の方だったら嫌だな。
「……オリオン、シャウラを連れて逃げて。ここは危ないわ」
姉ちゃんもオリオンと同じように空を見ていた。姉ちゃんは、俺たちにそう言うと、森の中へ入っていってしまった。
「ちょ、姉ちゃん!」
俺は姉ちゃんを追おうとした。だけど、目の前の木がいきなり倒れてきて、俺は後ろへ飛びのいた。
何だって、いきなり木が倒れてくるんだよ!? その木は姉ちゃんが走っていった道を塞いだ。
「一体どうなってるんだ?」
また、雷が鳴った。何か雨も降り出した。おかしいな。さっきまで星が出ていて雨雲なんかなかった。
通り雨か? いや、通り前にしては何かがおかしい。
「シャウラ。取り合えずここから離れよう」
オリオンは絨毯を広げた。俺たちは絨毯に飛び乗った。
また物凄い雷が鳴った。しかも、その物凄い雷は俺たちの後ろの木に落ちた! 俺は初めて雷が落ちる瞬間を見た。
「げげっ! こっちに倒れてくる!」
ここで終わりかと思った。木が倒れてきて、その下敷きになって終わりかと。
逃げなきゃいけないのがわかってる。だけど、俺もオリオンも慌てていて、逃げることが出来ず、木が倒れてくるのを見ていた。
何だかスローモーションのように倒れてくる木。雨で視界もよく見えない。
今まさに、潰される! って瞬間だ。風が吹いた。絨毯はその風に乗って、倒れてくる木を避けた。
「すげー! 俺たち、風に乗ってる!」
オリオンの楽しそうな声。風は、俺たちを乗せたまま、雷や雨から離れてく。
離れてみるとわかる。俺たちはすっかり、びちょびちょになっちゃったけど、離れた所は雨が降っていない。
何かよく見てみると、さっきまで俺たちが居た所の空だけに雨雲が出ていて雨が降ったり、雷が鳴ったりしていたんだ。
とんがり屋根のまわりだけ、雨が降っていて、村の方は無事みたい。俺たちが今いる所も星が見える。
でも、何でだろう。何であそこだけ雨が降ったんだろう。
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