シャウラ
「あぁ、彼らね。どうして、聞く必要があるんだい? 結局の所彼らは何も言わないじゃないか。
君の友達の魔力を奪ったのは、僕の邪魔をしたからさ。そうだな。君が君の魔力をくれるっていうなら、
二人の魔力を返すの考えてもいい」
アルコルはバカにしたように、鼻で笑った。何だか凄くムカツク奴だ。俺は飛びかかろうかと思った。
その思いはオリオンに伝わったらしく、オリオンに目で制されたけど。
「アルコル。俺はお前の話は本当だと思う。シャムもシャウラも誰も嘘をついてない。
でもさ、彼らが言ってたんだ。大人たちは急に変わったって。記憶っていうのは不確かな物。
皆が皆、同じ物を見て、同じだと思わないし感じ方も違う。同じことを覚えているとは限らない。
自分と相手が見ている物が同じだと限らないようにね。彼らは言ってたよ。
一人の子供が一枚の絵を置いていってから変になったって。シャム。シャムがすばるに導かれたのはいつ?」
オリオンはアルコルから姉ちゃんへと視線をずらした。俯いていた姉ちゃんもオリオンを見た。
「三〜四年前よ。改めて思い出すと不思議だわ。
大人たちは前からロクデナシだったけど、この時期からもっとロクデナシになった気がする。
だって、私は働く時間が多くなってそれが嫌で、すばるに導かれたんですもの」
「なるほど。きっと、それは三年前だね。俺、四年前まですばるにいたし。シャウラ、大人たちがいなくなったのはいつ?」
今度はオリオン、俺の方を見た。
俺は急だったから少しびっくりしたけど、大人たちがいなくなった時ははっきりと覚えているよ。
町から帰ってきたら誰もいなかったんだ。
「二年前だよ。誰一人としていなくなった。そういえば、あのとんがり屋根も二年前に出来た気がする」
そうだ。そうだよ。今では当たり前の風景の一部になってしまったけど、とんがり屋根。前はなかったよ。
大人たちがいなくなったのと同時期に、急に出来たんだ。とんがり屋根に近づいて、姉ちゃんに怒られたのもその時期だ。
「何を言いたいんだ、オリオン」
アルコルがイライラした感じで話に割り込んできた。うん、俺もオリオンが何を言いたいのかわからないよ。
オリオンはアルコルを無視して、話を続けた。
「俺が抜けた後、シャムがすばるに入り、大人たちがいなくなる前にアルコルに会い、絵を頼んだ。
シャムは絵の中には入ったことはあるの?」
オリオンがそう問うと、姉ちゃんは首を横に振った。
「ないわ。絵には巻き戻しの魔法がかかっているから、子供が中に入ると消えるって言われたから。
後、絵の中から誰か出てきたら巻き戻しの魔法はとけている。もし誰か出てきたらそのある物を持っているはずだ。
だから取り返しといてと言われただけよ。絵についてはよく知らないの」
姉ちゃん、絵の中がどんなふうになっているかは知らなかったのか。
そういえば、姉ちゃん、あの時盗んだ物を返してって言っただけだったな。ペンを返してって言わなかったのは知らなかったからか。
「なるほどね。二枚の絵。アルコル、シャムと会う前にこの村に来たことがあるだろ?」
オリオンはアルコルの方を向き、少しアルコルに近づいた。アルコルはオリオンを見据えて黙っていた。
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