シャウラ


当たり前だけと、俺は初めて村に飛んで帰った。町から帰ってくるときにはいつも、何かしら持ってたけど、今回は報酬はない。
でも、それも気にならなかった。飛ぶのは、歩いたり走ったりするのなんかより、全然速くて。俺もこの不思議な絨毯が欲しくなった。
どこにあるのかわからないけど。

さて、そんな不思議な絨毯に乗って村に到着すると、小さい子たちが群がってきた。

「今の何?」

小さい子たちはどんなことにでも興味を示す。初めて会った奴なのに、絨毯をしまっているオリオンの周りに平気で群がる。
その小さい子たちを掻き分け、姉ちゃんがこっちにくるのが見えた。何かまた怒ってるぞ?

「あんた、また町に行ったのね! どうりで羊たちの所にいないはずだわ。それより、さっきのは何? その子は誰なの?」

姉ちゃんは小さい子と話しているオリオンを見た。姉ちゃんは明らかに警戒しているな。
さっきのっていうのは、絨毯で飛んできたことだろう。俺も何だかよくわからないけど、楽しかったな。

「さっきのはよくわからないけど、こいつはオリオンって言うんだ」

俺はあえて町に行ったことはスルーした。

「初めまして、俺はオリオン。シャウラのお姉さん?」
「そうよ。私はシャム」

姉ちゃんはそうクールに言い放った。姉ちゃん、そんなに警戒する必要はないと思う。
オリオン、不思議な奴だけど、悪い奴ではなさそうだし。

「ここは良い村ですね。彼らの歌声が聞こえてきます」
「彼ら?」

オリオンは俺の問いを無視し、目を瞑り、耳を澄ませた。多分、まわりの音を聞いているんだろう。
俺も同じようにしてみたけど、何も聞こえない。

「ねー、彼らってなーにー?」

小さい女の子がオリオンの服を引っ張った。

「君たちにも聞こえるはずだよ。川の音、木の音、風の音。何て言っているかはわからなくても、聞こえるはず。 これはね、彼らがおしゃべりしている音なんだ」

オリオンはニカっと笑う。確かにこの村は自然に囲まれていて、木々がざわざわとよく言っている。
うん、そうだね。そう考えると、確かに話しているみたいな感じだよね。

「皆、俺たちと同じように生きている。だから彼らも歌ったり、しゃべったりするんだ。彼らの声は小さいから聞こえづらいけどな」

何だかオリオンの話はとっても不思議で、深いと思った。
でも、そうだよな。彼らってきっと植物のことだろ? 植物とか風とか。確かに植物は枯れたりするよな。
風とかだって、生きていないって証拠はどこにもないよな。
俺もオリオンのように目を瞑り、耳を澄ませた。小さい子たちも。そんな中、姉ちゃんだけが怪訝そうな顔をしていた。

「まさか、それだけを言いにこの村に来たわけじゃないわよね?」

せっかく耳を澄ませて聞こうと思ったのに、姉ちゃんのせいで気が散った。

「もちろん。シャウラ、子供の楽園に連れて行ってくれるんだろ? 一体どこにあるんだよ?」
「え? それ、ここのことだと思ってたけど……」
「えーっ!?」

オリオンはびっくりした声をあげた。あれ?

「あれ? 違うの? ここ、子供しかいないし俺はてっきりそうだと……」
「いや、だって俺。楽園って聞いていたから。遊園地とかあって」

俺がそう問うと、オリオンはため息をついた。え、じゃあオリオンが探していたのは俺の村じゃなかったってこと?

「それよりオリオン。貴方、今日は泊まる所はあるの?」

姉ちゃんが急に、話を変えた。しかも、少し慌てて。村のイメージを悪くしたくないのか?

「行く所ですか? まぁ、絨毯でぶっとばせば、家に帰れなくもないですけど、もう少し調べて行きたいし……」

オリオンはうーんと唸った。どうしようかなって感じで。

「なら、うちに泊まって行ってちょうだい。シャウラもそれでいいでしょ?」
「え、俺は全然構わないけど。でも、姉ちゃんって……」
「シャウラ。そうと決まればオリオンの村の中を案内してあげて」

急に俺にふったと思ったら、今度は俺の言葉を遮った。何か姉ちゃん、少し変だぞ。
人を家にあげるのは好きじゃないし、そもそも姉ちゃんは余所者が嫌いじゃないか。

「ただし、いつも言っているようにあの森には入らないでね」

今日の姉ちゃんは一方的だ。いつもにまして。まぁ、別にいいけど。森に入ったら怒られるから入る気なんかないよ。

「じゃあ、シャウラ。さっそく村の中を案内してくれよ。シャム、ありがとう」

オリオンはそう言って俺の腕を引っ張り、姉ちゃんにお礼を言った。オリオンは俺の腕を掴んだまま走り出し、この場を離れた。
何だオリオン。そんなにこの村に興味があるのか?



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