シャウラ


「オリオン、そんなに急いでもここには何もないぞ?」

オリオンに引っ張られながらそう言った。だいぶ姉ちゃんたちから離れたな。
オリオンは急に立ち止まり、キラキラした目で振り返り、俺のことを見てきた。まだ俺の腕を掴んでいるけど。

「森には何があるんだ?」

ズズイと一歩前に出た。

「何で森の中には入っちゃいけないんだ?」

さらに一歩前に。俺は反射的に後ろに下がった。

「な、何でって行っちゃいけない場所があるから……」
「行っちゃいけない場所?」

「うん。何か森の中にとんがり屋根の小屋があるんだけど、それに近づいちゃいけないから、 森に入るなって言われてるんだ。俺、一回近づいたことあるけど、姉ちゃんにすげー怒られたよ。 何でそんなに怒るのかってぐらい」

だからもう二度と森には入らなくなった。怒った姉ちゃんは怖いんだ。
オリオンは「ふーん」と言い、意味深に笑った。もしかして、何か企んでる?

「取り合えずさ、森の前まで行って見ようよ。別に入らないし、ほら、知らないと間違って入っちゃうだろ?」
「そうか。そうだね。森の前までならいいよ」

オリオンの言う通りだ。だって、オリオンはこの村に泊まるわけだし、 知らないと間違って入って姉ちゃんの大目玉をくらうかもしれない。そんなのは可哀想だ。
森はそんなに遠くないし、歩いて十五分くらい。

俺はオリオンを森の前まで連れて行った。森まで行く間、オリオンは機嫌がよさそうに、鼻歌を歌っていた。
相変わらずのデカイ森。目の前は全て森。その森の中にとんがり屋根の白い小屋がある。
そんなに遠くにあるわけじゃないから、森の前に行くと見えるんだ。

「へぇ、あれがとんがり屋根の小屋か」

オリオンは森の中を覗き込んだ。

「そうだよ。何で森の中にあんなものがあるかはわからないけど」
「ここからだと、そんなに遠くないんだな」
「オリオン。入らないからな。怒られるの俺なんだからな!」

俺が必死でそう言うと、オリオンは楽しそうに笑った。何も楽しくなんかないのに。

「大丈夫だよ。俺についてきな!」
「えぇ!?」

オリオンはそうニカっと笑い、森の中へと入っていった。

「ちょ、オリオン! ダメだってば! 人の話きいてたのかよ!」

俺はオリオンの腕を掴み、引き止める。

「何だよ、シャウラ。あのとんがり屋根は絶対何かある。お前は気にならないのか?」

オリオンは俺の手を振り払った。気にならないと言えば嘘になる。
でも、姉ちゃんの言うことは絶対だ。でも、気にならないはずがない。だって、不自然すぎるんだもの。
俺、始めは教会でもあるのかと思ってたよ。

「とにかく俺は行くよ。今行けば、夜までには帰って来られるし」

俺はどうすればいいんだ。森の中に行くオリオンを止めることもできない。でも、俺だって、俺だって……。

「待って! オリオン、俺も行くよ!」

俺は森の中へ向かうオリオンの後を追った。オリオンは待っていてくれた。

「よし、行こうぜ。シャウラ」

俺とオリオンは走った。とんがり屋根を目指して。



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