夜の街角


ずっとずっと待っていた。ここを出るのを、朝日が来るのを。羽も戻った。
隣にはチイ。ロウの足もある。失った物もたくさんあるけど、僕は今日ここを出る。今日は朝日が昇るんだ。

「チイ、行くぞ!」

丘の上で、チイと一緒に朝日を待っていた。朝日が顔を出した瞬間、僕は笑顔になり、チイの手を掴む。
チイも僕の手を握り返す。今日で、ここともおさらばだ。
案内人として色々なことをやった。逃げたルール違反者を捕まえたり、ルールを説明した。
血を見た。残酷なことを見た。でも、僕は今日、ここを出る。
羽を出し、風を捕まえる。黒い空が徐々に青空に変っていく。僕とチイは羽ばたき、手を離す。風を掴み、僕達は鳥になった。

「やっと、ちゃんと見れるね」

チイが空から下を見る。僕も見る。
そこには人っ子一人いない夜の街角。店は閉まっていて、街角も朝日に包まれる。

「ちゃんと夜の後には朝が来るのね。どんなに長い夜でも、絶対朝は来るのね」

チイが笑う。本当にチイの言うとおりだ。朝を忘れるくらい長い夜だった。
ずっと、目が良く見えなかった。僕は、今はじめて夜の街角を見たよ。随分おぞましいところだと思っていたけど、空からみた感じだとそうでもない。

「僕は、随分長いこと、あそこにいたけど、皆受け入れてくれるかな」

慣れてしまった夜の闇。初めは怖かったのに、いつのまにか心地よく感じている自分がいた。
まだ、あそこの住人みたいになっていないと信じたい。

「大丈夫だよ。スーは昔と同じで真っ白よ。きっと、ロウも迎えてくれるよ」

チイが笑う。チイの笑顔が眩しい。
僕らは黒い世界を出たよ。黒い世界を出て、一面雪で覆われた白い世界に帰るんだ。
長い夜を明かした朝日はとても明るく、まぶしく、僕達を照らしていた。




案内人がいなくなった。俺はスーが飛んでいくのを見た。白い鳥と茶色の鳥が青空を飛ぶのを見た。
闇から抜け出した2人。だが、闇は付きまとう。光があるかぎり、一度闇に触れてしまったか限り。

「マジクくん。彼は行っちゃったんだね」

チャーリーがやってきた。どうやら、チャーリーも見ていたみたいだ。
グレイスもいる。今日の魔法屋は人が多い。

「ああ。だけど、スーは長くここにいすぎだ。もう、他の世界じゃ合わないさ。だって、スーは夜の街角の案内人だ。グレイスがそう仕立て上げたんだ」

いつか、スーは戻ってくる。グレイスもそう思っている。

「次、戻ってきた時は俺の本当の姿が見えるんじゃないかな? だろ? グレイス」

トリクさんと話しているグレイスを見やる。
グレイスはにっこりと笑い、窓から空を見る。

「スー。しばしの間、そっちの世界を楽しんでおいで」




END




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これにて、夜の街角完結でございます。
長かった。1度違う形で書き、リメイクをした。内容的には変わってはいないんですけども。
さて、最後はバットかハッピーか。スーは戻って来るのか、来ないのか。
きっと、それはまだ誰にもわからないかな。

2013.5.6