冬の使い


それからも、お母さんは凄く機嫌が悪く、夕食を食べている間も悪態をついていた。
すっごく空気が悪かったけど、僕1人じゃないから随分マシ。
お兄ちゃんがだいぶフォローしてくれた。そのおかげで、だいぶお母さんの機嫌もよくなったと思う。
お父さんは、夕食の時間を過ぎても帰って来なかった。僕が自分の部屋に戻っても帰って来なかった。

「まさか、このまま離婚なんてことは……」

僕は自分のベッドでゴロゴロしながらそんなことを考えていた。
窓の傍に行き、外を見る。お父さん、返って来てたりしないかな? 
何か凄く外は寒そう。こんな時に外には出たくないな。外にだって、誰もいない……。それなのに、お父さんはどこに行っちゃったんだろう。 行くあてなんかあるのかな。目を凝らしても、誰も……あれ? 見覚えのある子がこっちに向かって歩いてきている。白い大きな狐をつれて。僕はよく見ようと、目を細めた。

「ブランカ!?」

僕は窓を開け、雪のように白い髪をした男の子にいつのまにか、声をかけていた。
その声は届いたらしく、ブランカはこっちを向いた。

「おー、ベルかー。1年ぶりだな。ビアンカも喜んでいるぜ」

ブランカはそう言って笑い、隣にいる白い狐の頭を撫でた。

「今、そっち行くから待ってて!」

僕はそう言って、窓を閉め、コートを羽織った。階段を一段飛ばしで急いで降り、ブランカがいる外へ。
ひぃ、外はやっぱり寒いな。でも、やって来たんだ。毎年来るあの子。また、遊びに来てくれたんだ!

「ブランカ。また来てくれたんだね! ビアンカも!」

僕は走って、ブランカの所へ行った。ブランカ、去年より背が伸びたみたい。
ビアンカも、さらに毛並みが白く綺麗になったみたい。1年で結構変るもんだなぁ。

「そりゃー、また来るだろー。来年も来るぞ。今回も暫くはこの町にいるからさ、遊ぼうぜ」

ブランカはにこっと笑った。これで、スノーウィーが冬眠しても暇じゃなくなるぞ。
ブランカと一緒に遊ぶんだ。僕はなんだか嬉しくなった。

「あ、そうそう。あと3日くらいしたら雪が降るから、色々準備をしておいた方がいいぞ」

ブランカは空を見上げていた。
確か、去年もこうやって雪の降る日を教えてくれたっけ。でも、あと3日か……。

「ってことはあと3日で、学校も休みかぁ……」

僕は溜息をついた。雪が降るとスノーウィーたちが冬眠するから学校が休みになる。本当に色々準備しないとな。それこそ、食べ物とかも。きっと、毎年のことだけと買い物が忙しくなるんだ。そんなことを考えていると、あることが頭に浮かんだ。

「そういえば、ブランカ。泊まる所はあるの?」

僕はブランカを見た。夜ってこともあって、凄く寒い。このまま外にいたら、いくらブランカでも凍えてしまう。 もし、泊まる所がないなら、今日くらいはお母さんに内緒で、ブランカを部屋に呼ぶとか。あ、でもうち動物だめなんだ。お父さんが嫌がる。

「大丈夫だよ。今年も去年と同じ場所に行くさ。ほら、寒いからもう家に戻りな。また明日来るからさ」

ブランカは、にこっと笑った。僕は、その言葉を聞いて安心した。
よかった。ちゃんと泊まる所があるんだね。

「うん。じゃあ、また明日会おう」

僕とブランカはお互いお休みを言い、ビアンカの頭を撫でた。
僕はブランカを見送り、ブランカが見えなくなるまで外にいた。ずっと手を振っていた。家に入る前にあたりを見回してみたけど、お父さんの姿はどこにもなかった。
家に入ると、ちょうどお風呂から出てきたお兄ちゃんに会った。

「何だ、お前。外に居たのか?」

そういえば、お母さん。もう機嫌直ったかな。

「うん。ブランカに会っていたんだ。ほら、去年も来ていたでしょ?」

お兄ちゃん覚えているかな。
確か、去年何回か会ったはずだけど。あぁ、でも殆ど一瞬とかだったっけ。

「あぁ、あれか。白い狐をつれた白い髪の子だろ。覚えているよ」
「うん、そうそう。それで、ブランカが言っていたんだけど、あと3日で雪が降るみたいだよ」

お兄ちゃん、やっぱり覚えていた。僕は明確な話を聞いたわけじゃないけど、ブランカが冬の使いだと思っているんだ。
冬の前にこの町に来るし、雪が降る日を教えてくれる。まぁ、この話は誰にも話してないけどね。

「ほー、そんなことより、早く寝ろよ。明日はまだ学校なんだから」

お兄ちゃんはそう言って、あくびをしながら自分の部屋へと向かった。
お兄ちゃん、反応薄い。頭のいいお兄ちゃんのことだから、いつ雪が降るとかわかっていたのかも。っと、お兄ちゃんの言うとおりだ。早く寝ないと。
それにしても、お父さん帰ってこなかったな。明日は帰って来てくれるといいな。そう思いながら僕は再び部屋に向かった。



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