蒲公英
直紀はある空き地に来た。
「ここなら、こいつも大丈夫だろ」
その空き地は、誰かが植えたわけではないがたんぽぽ畑となっていた。
「このへんがいいかな?」
直紀は空き地の入り口付近にしゃがみこみ、たんぽぽを植えた。
たんぽぽはさっきより元気そうに見えた。
直紀は土のついた手を軽くはらい、元気そうなたんぽぽを見ると満足そうに伸びをした。
「そのたんぽぽ…どこから持ってきたんだい?」
直紀の後ろから年老いた声が聞こえた。
「あぁ?」
直紀は振り返った。
そこには1人の老人が杖をつき、立っていた。
老人はしわくちゃな顔でにっこりと笑った。
「そのたんぽぽ、ビルの所にあった奴かい?」
「何でわかった?」
直紀は老人をジロリと睨んだ。
直紀は警戒するように言った。
老人は直紀から視線をたんぽぽに移し、また笑った。
「あそこのたんぽぽは、他のたんぽぽより小さかったからね。それに、さっき見てきたんだよ。元気かどうか。それで工事の人が君の事を見ていたらしく、学生服の子が持っていったって言っていたからね。君…名前はなんていうんだい?」
老人は空き地の中に入った。
たんぽぽたちが風でゆれた。
「柳沼 直紀(やぎぬま なおき)」
直紀はぶっきらぼうにそう言った。
「そうか、直紀くんか」
老人はまた笑った。
直紀は老人から目を離し、先程のたんぽぽに視線を移した。
たんぽぽはしゃんと立ち、直紀の事を見上げていた。
まるで、何かを言いたそうに…。
直紀は暫くたんぽぽを見ていたが、ゆっくりと立ち上がった。
「もう行くのかい?」
老人は直紀を見た。
立ち上がってみるとよくわかる。
この老人は直紀より小さく、直紀を見上げる形になっていた。
「別に用はもうないからな」
直紀はそっけなく言い、空き地を出た。
そして歩き出した。
「またこの空き地においで。たんぽぽたちも君のことを待ってるよ」
老人は歩いている直紀を呼び止めるように言った。
が、直紀は立ち止まらず、ましてや振り返りもしなかった。
「気が向いたらね」
と後ろ向きで、ヒラヒラと小さく手を振った。
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