カミカクシ
「あれー? アリちゃんだ」
森から出た時、1人の女子生徒と会った。昼休み、有人と真斗の近くでオロオロしていた女子生徒だ。
女子生徒は、有人を見るや、嬉しそうに近寄って来た。有人よりも、背が高い。
「琴子ちゃん。今帰り?」
「うん。こんにちは。秋本くんも」
琴子はにこりと、男と晴太に笑いかけた。
「こんにちは」
男も笑う。晴太は、女子と話すのが何だか気恥ずかしく、ぺこりと頭を下げた。
「アリちゃん、聞いてよ」
「うん?」
「もうすぐ、大会なのに、もう部活終わりなの! ほら、小学生消えたじゃない? あれが、関係しているみたい」
琴子は、むすっと少しだけ拗ねているように晴太は感じた。有人は、そんな琴子を見て、笑っていた。
「壇上さんは、確か陸上部だっけ」
晴太は、琴子が放課後、校庭を走っているのを見たことがあった。
「そうだよ 長距離走ってる!」
人懐っこい笑顔を晴太に琴子は向ける。晴太は、顔が熱くなるのを感じた。
「さてさて。学校も、そんな対応をしているなら、3人は帰った方がいいね? 本当は送って行ってあげたいけど、まだやることが残っててね」
男は、立ち話をしている3人を追い立てるように急かした。確かに、もう暗くなって来ている。はやく帰ることにこしたことはない。
「そうだね。琴子ちゃん、家まで送るよ」
「ほんと!?」
「秋本くんは……」
「いや、大丈夫だよ」
言いかけた有人の問いを先に、丁重にお断りする。
琴子を見ると、にこにこと嬉しそうな顔をしている。邪魔しては悪い。なんとなく、居心地が悪くなり、晴太は俯いた。
「あれ?」
俯くと、ちょうど男の右足が目に入った。先程は気にならなかったが、何か違和感を感じる。うっすらと、病院の匂いがする。
「どうしたの?」
有人が、そんな晴太を見て、不思議そうに首を傾げた。
「いや……」
何だか、ザワザワする。
「3人とも、気をつけて帰るんだよ」
男は、晴太の様子に気づいていないのか、朗らかに笑った。笑い、再び森の中へ。
「もしかして、僕たち邪魔しちゃったのかな……うわっ!?」
森に消える男を見た後、振り返ると、有人が驚いた声を出した。
「どうしたの? あれ、子供?」
琴子も振り向く。晴太もだ。そこには、確実にさっきまで居なかった小学生くらいの男の子が立っていた。
「びっくりしたぁ。どうしたの? 帰らないの?」
有人が、ほっと息を吐き、男の子と目線を合わせる。男の子は、じっと3人を見つめている。
顔を見合わせる3人。男の子は、どこか、しょんぼりとした顔を見せ、森の中へ駆けて行った。
「さっきの人の知り合いかな……?」
不思議そうな声を出した有人の問いに答えられるものは誰も居なかった。
2人と別れ、家に帰ると晴太は母親からお叱りを受けた。いつもより帰りが遅いため、心配されたのだ。
晴太の家には、父親がいない。母と祖母と、晴太で住んでいる。父親は、不倫をしていた。それだけなら、まだしも、よその女との間に子供を作っていた。
母は、それを知り、離婚を選択し、父も不倫相手を選んだ。
「明日からは、携帯を持って外出して。行方不明になった子たちだって、まだ見つかってないんだから」
半ば押し付けられるように、携帯電話を渡される。座っている祖母が眠たそうに欠伸をした。
「昨日は、私も捜索に参加したけど、これは鬼の祟りだよ。晴太たち、子供達には知らされていないだろうけど、
最初の子がいなくなって、2週間。それから、2人消えた。最初の子は、しかも犬の散歩中に犬と一緒に消えたというじゃないか。こんなこと、するのは鬼に決まっている」
「ちょっと、お母さん!!」
欠伸をし、お茶を啜りながら話す祖母に母親が声を上げる。そんなことになっていたなんて、晴太は知らなかった。思わず呆然と立ち尽くす。
「とにかく! 晴太! 明日は携帯を持っていくのよ! 遅くなるようなら迎えにいくからね!」
強制的に母親が話を終わらせた。鬼の仕業。祖母の言っていることは、ある意味正しいのかもしれない。晴太は、ぼんやりとそんなことを考えていた。
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