9.円舞曲


ボクはヤマトと出会って色々な事を知る事が出来た。
知らない世界を知る事が出来た。
そして…この暗闇からボクを連れ出してくれた。


「マヤ、お前…」

ボクはヤマトを後ろから押して、銃弾の軌道を逸らした。
銃弾は博士にあたる事なく、あさっての方向に飛んでいってしまった。

「嫌だよ…。もう、誰かが死ぬのは…っ!! 嫌だよっ……!!」

ボクは悲痛な声を出した。

「いいのか?」

ヤマトが拳銃をおろした。
ボクは小さく頷いた。
博士は腰がぬけたのか…その場に座り込んだ。
ヤマトは博士を睨んだ。

「マヤに感謝するんだな。………ナツキ!! さっさと起きろ!! お前、もう回復してんだろ!!?」
「ちぇ、ばれたか…」

ナツキが立ち上がった。
ボクがつけた傷は消えていた。

「お前回復力凄いからな。どーせすぐに意識もどったんだろ?」
「あれ? 全部バレバレ? ま、ナツキさんはあんな攻撃じゃ壊れないけどねー」

ナツキがケタケタと笑った。
そしてボクのほうを見た。

「あんたがマヤ? 俺はナツキ!! あんたの兄貴分ってとこかな?」
「兄貴分?」

ボクは首をかしげた。

「ほら、さっき言っただろ?ナツキは兵器だって。ナツキはお前の前で作られた事って事だよ。身長はお前より低いし、性格も子供っぽいけどな」
「こらそこ!! ヤマト!! そう思うなら改良しろ!!」

ヤマトとナツキが少し言い合いを始めた。
ボクはそのやりとりを見て、おもわず笑ってしまった。

「あ! オレ、ちょっと前から思ってた事なんだけど…血の臭いがしなくなってからアレ、ヒミコの臭いがしないんだけど…」

ナツキが倒れているヒミコを指差した。
そして近づいていき、変な顔をした。

「あれ…これって…ヒミコの偽者ってか人形じゃん!! ヒミコの奴、いつのまにか逃げやがった!!」

え? ボクなナツキの言ってる意味が良くわからなかった。
じゃあ、ヒミコは死んでないの?
ボクはヒミコを殺してないの?
ヤマトがヒミコに触った。

「ありゃ、ホント。いつの間にいれかわったんだろう。俺でも気づかなかった。今頃こいつの事だから…どっかで散歩でもしてんじゃないのかな?」

ヤマトがヘラリと笑った。ボクもつられて笑った。
もう、誰も殺さなくていい。
そう思うと嬉しくなった。

博士がいつのまにか消えていた。
ボクは…ただあのヒトにほめてもらいたかった。
ただ…あのヒトに愛してほしかった。
でも、もう何もいらない。
だって自由があるもん!!
本当の自由が。

「さて、あんたは境界線を越えてこっちへ戻って来る事が出来た。そんなあんたの望む大きな夢とは?」

階段を上ってるときに、急にナツキが聞いてきた。
大きな夢…そんなの考えてもいなかってけど…。

「ヒトでありたい。兵器じゃなくて…誰よりもヒトらしくありたい。そして…皆に幸せを与えるヒトになりたい」

ボクは笑った。
心から笑った。

出口に着いた時、ボクの目に綺麗なほど青い色と虹色のアーチが飛び込んできた。
この広い青空が、雨上がりの虹が空がこんなに綺麗だとは思わなかった。

そして、ボクの心の雨もやんだ。



  BACK|モドル|>>NEXT