8.幻想曲
あのヒトがボクの前にいる。
こんな…汚らわしいボクの前に…。
血にまみれたボクの前に。
ボクはありもしない幻と夢に想いをはせる。
「やぁ、ヤマト。久しぶりだね。それにナツキも…」
博士が笑いながら言った。
「君たちが自分から私に会いに来てくれる事はわかっていたよ。マヤがそう感じていたからね」
「だったら何だってんだ? 俺だって…あんたの目的を知ってるぜ!」
ヤマトはそう言いながら、いつも持ち歩いているカバンから拳銃を2丁取り出し、構えた。
「旅人になってから全然使ってなかったから、なまっちまってるが………あんたを倒してマヤを連れて行くのには充分だろう」
ボクを…連れて行く?
ボクの耳がおかしくなければヤマトは確かにそう言った。
ボクヲ…ツレテイッテクレルノ? ソトノセカイニツレテイッテクレルノ?
博士が高笑いをした。
「マヤを連れて行く? 馬鹿な事を言ってるんじゃない。大体マヤと君では何の接点もないじゃないか」
ヤマトが何か言いかけた。
博士は知らない。
ボクがヤマトと出会ってしまった事を…。
ボクガ、モウコロシタクナイッテコトモ…。
「私は私のやる事を邪魔する奴が嫌いだ。勿論君たちも邪魔をするから嫌いだ。だから…君たちには消えてもらう。マヤ!! あいつらを…消せ!!」
博士が声を上げた。
ボクは走った。
2人に向かって…爪をたてて。
イヤダヨ…。
コンナコトシタクナイヨ……。
「ヤマトは博士を!! アイツは…オレが止める!!」
ナツキが刀を構えて向かってきた。
血のしぶきが飛ぶ。
誰の? ボクの? ナツキの? わからない。
イヤダヨ…。
モウ、ダレモコロシタクナイ……。
「ナツキ!!」
ヤマトが叫んだ。
ボクの手は…また血でべっとりとなっていた。
ナツキはぐったりと倒れた。
まるで…壊れたように…。
「くそっ!!」
ヤマトが博士に向かって発砲した。
ボクは急いで博士のところに走り、その銃弾の軌道を変えた。
銃弾は凄いいきよいで壁にめりこんだ。
「いい子だ、マヤ。次は…あいつだ!!」
博士はにっこりと笑ったが、またすぐに声を張り上げた。
ボクは爪をたて、ヤマトに向かっていった。
イヤダヨ…。
コンナコトシタクナイ…。
嫌だよ!!!!
「マヤ…お前…」
「マヤ!! 何やってる!!? 早く……そいつを消せ!!」
ボクは…ヤマトを切り裂く事が出来なかった。
「……で、出来ないよっ…!! ヤマトを殺す何て…誰かを傷つける事何て………もう、出来ないよ……」
きっと今のボクは凄く情けない顔をしているんだろうな。
「マヤ!! 早く消せ!! 私にはお前が必要なんだ!!」
博士が何か叫んでいる。
ボクはヤマトを見た。
ヤマトも…ボクの事を見ている。
「ヤマト…ボクを、壊して」
ボクは博士に聞こえないように小声で言った。
少し、声が震えていて、まるで…自分の声じゃないみたいだった。
「俺がそんな事出来るわけないじゃないか。俺はさ、もう一度お前と旅がしたいんだ。もっと色んなところを見せてやりたい。お前はどうだ? 本当に…それでいいのか?」
ボクは首を横にふった。
「ボクも…ヤマトと一緒に自由な旅がしたい。でも…ボクはたくさんのヒトを殺してきたんだよ? それなのに…いいの?」
ヤマトは暫くう〜んと唸っていたが、笑った。
「良くないけど…生きて、いっぱい反省しような? いっぱい善いことしような? それにマジで良くないなんて言ったら、ナツキに怒られちまうよ。あいつも…兵器としていろんな事をやってきた。だから、あいつは今ふんばって生きてんだ。自分の夢を叶える為に。俺との約束を守る為に」
ヤマトはナツキの方を見た。
そして、ヘラリと笑った。
「ま、後は俺に任せときな」
ヤマトは博士に向かっていった。
そして博士を睨んだ。
「これであんたの頼みの綱のマヤはいなくなったな」
博士は冷や汗をかいていた。
ヤマトは拳銃を構え、銃口を博士に向けた。
「マヤは私のものだ!! それに、君はマヤの事を知っているんだ!?」
「ちょっとした旅人仲間でね。それにマヤはあんたのモノなんかじゃない。あんたはマヤを壊されると困るからって、マヤの内部を少しでも知ってる人を殺してきたんだろう? それを…望んでもいないマヤにやらせやっがって……。おっと! マヤが駄目になったからって、今度はナツキにのりかえようとか思ってないよな? あいつは…マヤより自我が強いんだぜ? あんたには無理だよな? あんた、それでナツキを捨てたんだから…。さってと…そろそろあんたにはケジメをつけてもらわなくちゃならねぇな」
ヤマトが引き金に手をかけた。
「待ってくれ!! 私は……!!」
「言い訳なんて聞きたくないね」
銃声がこの薄暗い空間に不気味に響いた。
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