7.夜想曲
雨が降る。
まるで…誰かの心をうつしているような。
また、あいつは心の中で泣いているのだろうか?
俺たちがソレを見つけた時には、もうほとんどの血が洗い流されていた。
「アスカ…」
ナツキがソレを見て、悲しそうに呟いた。
この傷を見ればすぐにわかる。
犯人はアイツだ。
アイツが切り裂いた。
心の中で泣きながら…。
「殺されてから、まだそんなにたってない。博士は近いぞ」
ヒミコがソレを触って確かめた。
俺たちはソレを土に埋め、供養した。
ナツキが土に埋められるソレを見て、ドドッという土の音を聞いてまた悲しそうな顔をした。
そのナツキを見てるこっちも痛くなる。
何故人は次から次へと欲望がわいてくるのだろうか?
別に自分が頂点じゃなくたっていいじゃないか。
「ナツキ、博士の後を追えるか?」
俺がそう言うと、ナツキはコクンと頷いた。
「オレに追えないものはないよ」
ナツキは目を閉じ、神経を研ぎ澄まさせた。
「何やってんだ?」
ヒミコが不思議そうに首をかしげた。
ヒミコはまだナツキの事も、アイツの事もよく知らない。
「博士の居場所を突き止めてるんだよ。ナツキは鼻がいいからね。臭いを覚えた奴ならどこにいるかを調べる事が出来る」
「行った事のないところでもか?」
「実際に行った事なくても地図とかで見て知って覚えてるからね。ま、覚えてなくても臭いさえわかればちょろいけどな」
ナツキが目を開いた。
「いた!! 2人とも、オレについて来て!!」
ナツキは走りだした。俺たちも後を追った。
もうすぐだ。
もうすぐアイツを…。
ナツキはだんだん人気のないほうに行った。
そして、地下に続いている階段を見つけるとそこで止まった。
「ここだよ。ここから博士の臭いと…アイツがいる!!」
ここには見覚えがあった。
ミコトが俺にいろんな技術を教えてくれたところだ。
俺たちは階段を下りた。
階段は深い地下までのびており、ほとんど光は届かなくなっていた。
「本当にここにいるのか?」
ヒミコがあたりを見回しながら言った。
「いるよ! 絶対!!」
ナツキは自信ありげに言ったが…少し緊張していた。
急に…かすかだが変な音がした。
その変な音の直後にドサッという何かが倒れる音がした。
その瞬間…ヒミコの気配が消えた。
「今の音…何? それに、血の臭いがするけど…ヒミコは?」
血の臭い…いやな予感がする。
ナツキが耳と鼻をきかせてヒミコを捜した。
ナツキもヒミコの気配が消えたのに気づいたようだ。
「あれ? オレ、今何か…水みたい……いや、血みたいのを踏んだ気がする。………うわぁ!!!! ヒ、ヒミコ!!!!??」
ナツキがソレを見て叫んだ。
変な音とは…ヒミコが切り裂かれた音だった。
「ヒミコ…」
ヒミコの体は2つにわかれていた。
叫ぶ暇すらなく、痛みを感じる暇さえなく…ヒミコはただの肉の塊となった。
「マヤ…いるんだろ?」
俺はヒミコを切り裂いたアイツに声をかけた。
ナツキが刀を構えた。
「…ヤマト」
アイツは俺の名前を呼び、ゆっくりと闇の中から姿を現した。
暗くてアイツの顔はよく見えなかった。
でも…俺にはアイツが、マヤが泣いているように見えた。
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