6.葬送曲


何も聞こえない。
何も分からない、届かない。
光が眩しくてボクは目を逸らす。
闇が暗すぎてボクは目を逸らす。
出会い何てなければ…自由何て望まなければ…。
こんなに…。


あれから数日が過ぎた。
ボクは大きな建物の外の階段に座っている。
博士は…その建物の中。
もう夕方なのに1人でいるとこの外見のせいもあって、色んなヒトに見られてる気がする。
たまに、ボクの事を指さすヒトがいる。
急に影が現れた。

「博士はどこ?」

ボクはそのヒトを見上げた。
あの人だ。あの弓の女のヒト…。
確か…名前はアスカ。

「博士は?」

アスカはもう一度聞いた。
今度は脅すように…。

「博士は中。でも中は入れない」

今、ここに博士がいなくて良かった。
もしここに博士がいたら…ボクは……。

「そう。ならここで待つわ」

アスカはそう言い、ボクの隣に座った。
暫く沈黙が流れた。
その沈黙をやぶったのはアスカだった。

「君、確かマヤって言ったわよね? 君は何故博士の傍にいるの? あの人は欲深い。それは君が一番良く知ってることじゃない? いずれ、君も私たちのように切り捨てられるかもしれないわ。それに君にはヤマトがいるじゃない。それでも博士と一緒にいるの?」

ボクは下を向いた。
カオヲミテハイケナイ。
ジョウガウツルカラ………。

「約束ですから。博士との。博士は1年間だけボクを自由に…外の世界を見るって約束を守ってくれた。だから…ボクも博士との約束を守らないと…」
「君ほどの力があればいつでも自由になれるのに?」

ボクはその問いには答えなかった。
ボクは今までたくさんの人を切り裂いてきた。
博士には嫌われたくない。
でも、もしこの世に霊がいるのなら…ボクは呪い殺されているだろう。

もしボクが自由を望まなければ…。
あのヒトに出会わなければ…。

アスカが急に立ち上がった。

「博士……」

アスカが呟いた。
博士が笑った。

「またお前か。今度は何用だ? 私はお前と違って忙しいのだ。それに今度邪魔したらと言っておいたはずだろう? マヤ!!」

博士はボクの方を見た。
もし、このヒトが博士の方につくって言っても博士は聞かないだろう。

“一度すてたものは拾わない”

これが博士の主義。
ダカラボクモ…ソシテコノヒトモ………。

「私は先に行く。こいつを消してから私の後を追って来い」

博士はそう言うと、ボクの返事を聞かないで行ってしまった。

雨が降ってきた。
アスカは博士の後を追おうとした。
博士の命令は絶対だ。
ボクには逆らう事が出来ない。
だから…ボクはこのヒトを……。

「………ごめんなさい………」

その瞬間、ボクの手はまた血で汚れた。
ドサッという音がした。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

ボクはその言葉を動かなくなったヒトにずっと繰り返していた。

「ごめんなさい………」

雨が強くなった。
まるで、この血で穢れた大地を潤すように…。


もしボクが自由なんて望まなければ…。
もしボクがあのヒトと出会わなければ…。
こんなに…。


こんなに、辛くて苦しくて、痛い思いをしないですんだのかな?


もし、ボクのこの悲しき願いが叶わないのなら…。



















幽霊でもいい。

ボクを殺して下さい。



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