僕らの不思議な夏休み


さて、六時まで何をしようか。宿題は嫌だし。何かお腹は減らないし。
あ、そうだ。僕たちは心霊写真のことでここに来てたんだ。じゃあ、一度松田くんのところに戻らないとな。

「宗ちゃん、これから松田くんの所に戻るよね?」

僕が宗ちゃんに問うと、宗ちゃんはコクっと頷いた。
宗ちゃんはポケットに入れた心霊写真があるかどうか確認し、松田くんの家へと向かった。

「遅い!」

松田くんはプリプリ怒っていた。あまりにも僕たちが遅くて。松田くんは短気で我侭だからやっかいだ。

「これ、心霊写真じゃなくて。木の影が人の顔に見えるだけだって。てか、心霊写真って殆どが撮影ミスらしいよ。 だからデジカメが主流になって殆ど出回らなくなったでしょとも言ってたよ」

宗ちゃんは、よつばくんから聞いた話を松田くんにした。
松田くんはつまらなさそうに「なーんだ」と言い、宗ちゃんから心霊写真を受け取った。

「そうだ。俺、今からあいつのとこ行く予定だけど、宗一郎はどうする?」

松田くんはそういえばって感じで話を変えた。柳沢くんも言ってたけど、あいつって誰なんだろう。
宗ちゃんは知っているみたいだけど、僕は知らない。僕の知らない間にいつのまにか皆の間で秘密が出来ているみたい。

「僕は後で行くよ」

宗ちゃんはそう言って、松田くんにさよならを言い、学校がある方へと向かった。

「バイバイ、松田くん」

僕も宗ちゃんを追いかける。宗ちゃん、すっかりここに慣れちゃったな。
嬉しいけど、皆で僕に隠していることがあるのは寂しいかな。僕も聞けばいいんだけど、教えてもらえないと思うと嫌だし。

「宗ちゃん、次はどこに行くの?」

僕がそう聞くと宗ちゃんは後ろを振り返り、僕の方を見た。

「学校だよ。花子ちゃん、何か知っていると思って。それよりお腹とか減ってない?」
「うん。大丈夫だよ」

そういえば、もうお昼だっていうのにお腹が減ってない。珍しいな。そういえば、僕は朝ごはんを食べたっけ?

  「そっか。じゃあ、僕は一度家に戻るから、先に学校に行っててくれる?」

そうか。宗ちゃんはお腹が減っているのか。まぁ、別に僕は家に帰る用事はないし、何か家の中が暗くて嫌なんだよな。

「うん。じゃあ、学校でね」

まさか夏休みなのに学校に行くとは。って、毎日ラジオ体操しに行ってるか。


そういえば、去年は学校のプールが開放されてたから毎日泳ぎに行ってたけど、今年はどうしようかな。
僕は行きたいけど、宗ちゃんはよつばくんの正体暴くのに必死だしな。宗ちゃんからプール行こうって言ってくれないかな。


学校は、プールに入っている子たちの声と、監視員のお兄さんたちの声で賑わっている。
どうやら、夏休みなのに先生たちも来ているみたいで、職員玄関が開いていた。僕はこの間の夜と同じようにそこから中に入った。
ーと、確か花子ちゃんのトイレは三階の、右から三つ目で、右から三番目のトイレだっけな。
でも、どうしよう。花子ちゃんのトイレは女子トイレなんだよね。僕なんかが入って大丈夫なのだろうか。
当たり前だけど、女子トイレなんか入ったことないし。
誰かに見られたらどうしようか? 校舎の中に生徒はいないと思うけど、誰かに見られたら新学期からは地獄だろう。
だけど……! よし! 僕は勇気を出して女子トイレに入り、右から三番目のトイレを三回ノックした。
ノックっていっても、ドア開いているけどね。

「花子さーん」

女子が一度花子ちゃんを呼び出そうとしているのを見たことがある。
結局花子ちゃんは出てこなかったけど、今回もその時と同じで返事が返ってこない。

「花子さーん。遊びましょー」

花子ちゃん、寝てるのかな。会えないんじゃしょうがないよね。宗ちゃんだってわかってくれるはず。
そう思い、僕はトイレの入り口の方へと方向転換した。

「うわぁああぁああ!!?」
「何だ、桜木か。こんなとこでどうした? ていうか、女子トイレ入っちゃだめだよ」

いないと思ったら、花子ちゃん。僕の真後ろにいた! びっくりして思わず叫んじゃったよ。

「用は女子トイレから出たら話すよ」

あーびっくりした。びっくりした。もう、花子ちゃんてば。

「ここを? 別にいいけど、あんたなら見つからないと思うけどね。まぁ、移動したいなら移動しよう」

花子ちゃんは楽しそうに笑った。僕ならみつからないっていうのがよくわからなかったけど。
僕はよつばくんみたいに女の子に間違えられそうな顔でもないし。取り合えず僕たちは僕の教室に移動した。
ちょうど、十二時の鐘が鳴った。

「用っていうのはね、よつばくんのことを聞きたいんだ。よつばくんについて知っていることがあったら教えてもらえないかな?」

僕がそう言うと、花子ちゃんはうーんと唸った。

「別に教えてもいいけど、あたしが知ってるのは、よつばは昔山に住んでいたってことぐらいだね。 よつばが人間じゃなってことは知ってるだろ?」

僕はコクっと頷いた。やっぱりよつばくん、人間じゃなかったんだ。何となくそう思っていたけど。

「あの子、昔に何があったのか知らないけど、自分のこと話したがらないんだよ。 山に住んでたっていうのだって、話の流れて言ったくちだしね」

花子ちゃんはそう溜息をついた。そうか。でも、人間じゃなくて、山に住んでたっていうのだけわかったぞ。
そういえば、宗ちゃん遅いな。

「あたしが知ってるの何てそんなもんだよ。あんまり知らないのと同じだね」

花子ちゃんはそう苦笑した。

「ううん。全然そんなことないよ。そういえば、花子ちゃんは夏休みの間何してるの? 誰も学校来ないから暇でしょう」

ふと気になったから聞いて見た。だって、僕はそうゆうの見えない子だったから、またいつ見えなくなるかとかわからないし。
夏だけしか見えないのかもしれないし。

「夏休みかい? そうだね。子供たちを見守る必要がないから暇だね。 だからゆっくり休むっていうのがいつもの日課かな。知ってた? あたしたちって本当は学校を守ってるんだよ?  それが何か怖い感じに伝わっちゃって嫌になっちゃうよね」

花子ちゃんは少しだけ、怒っていた。僕もこうして花子ちゃんに会うまでは怖いものだと勝手に思ってたよ。
でも、違うんだね。それにしても、宗ちゃん遅いな。

「僕、そろそろ行くね。色々ありがとう」

僕は花子ちゃんに別れを告げ、学校を後にした。校舎を出て、校門まで行くと宗ちゃんが待っていた。宗ちゃん、校門に居たのか。

「何か聞けた?」
「うん。よつばくんが人間じゃないってことと、山に住んでたってことを聞けたよ」

僕がそう言うと、宗ちゃんは情報が少なくてがっかりした顔をした。だけど、直ぐにはっとした顔をした。

「そうそう。僕も聞いたんだった。あの人幽霊だと思う。誰にも見えてなかったから。 それでよつばくんのこと聞いたら、毎年一回は生まれた所に帰るって言ってた。生まれたのはここじゃないってことだね」

なるほど。確かにここには山はあるけど、よつばくんの山はここじゃないってことか。
山の妖怪って結構いるぞ。山姥とかそうでしょ? よつばくんは幽霊じゃなさそうだし。
でも、僕はそんなことより気になってることがある。

「宗ちゃんはさ、前から見えたの? そうゆう幽霊とか。僕は見えなかったのに最近見えるんだよね」

一体何でかわからないけど。あの学校に通知表を取りに行ってから見えるようになった気がする。
この間も幽霊みたいな人が前を横切ってったもの。

「うん。僕は前から見えてたよ。幽霊も妖怪も。 何かもとから霊感っていうのがあるらしく、あさひさんとか花子ちゃんは人に見せようと思ったら見えるんだろうけど、 普通に皆が見えない状態でも僕は見えるからね。そういえばさ、よつばくんって男の子なの? 女の子なの?」

宗ちゃんはやっぱり前から見えてたんだ。だって、全然怖がらないし驚いたりしてないものね。
そうゆうの日常の一部みたいになってるんだね。そういえばどうなんだろう。よつばくんのことだけど、女の子なのかな男の子なのかな。髪だって、僕たちよりは長いし、中性的な顔だもんね。

「そういえば、どっちなんだろう」

そんなことを考えながら僕たちは家に帰った。六時までは時間があるし、パソコンで調べてみることにしたんだ。
てゆーか、さっきから何か後ろで気配がするんだけど、宗ちゃんは気づいてないのかな。
宗ちゃんが気づいてないってことは、気のせいなのかな。



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