僕らの不思議な夏休み


家には誰も居なかった。でも、宗ちゃんが鍵を持ってたから入ることが出来た。
僕たちは直ぐにお父さんの部屋にあるパソコンを起動させた。宗ちゃんの家は一人一台パソコンがあるらしいよ。
正直、僕はパソコンってよくわからないけどさ。まぁ、宗ちゃんがいるから大丈夫でしょ。

「取り合えず、山に住む妖怪っと……」

宗ちゃんはインターネットのページが開くと、ローマ字でパチパチとキーボードを見ずに打ち始めた。
やっぱり家でパソコンとか使ってるんだね。打つのも速い。検索して出てきたのは、山姥とか山彦とかそんなもんだった。
あとは何かよくわからない者。日本の妖怪一覧とかで調べてもみたけど、よくわからない。
そもそも妖怪とか幽霊ってあんまり知らないしな。一応幽霊でも調べてみたけど、よけいわからなくなった。

「やっぱり情報が少なすぎるな」

宗ちゃんはそう言って、大きく伸びをした。パソコンなら楽勝かと思ったけど違うんだね。

「そういえば、あさひちゃんの所にいる外国人は留学生だよね。なんの勉強してるんだろう」

僕がふとそう思い、思いつきでいうと、宗ちゃんは何か閃いたのかはっという顔をした。

「そうか。そうだよ。毎日神社に行くぐらいだから何か知ってるかもしれないよ? よーし!  あさひさんのことを聞くついでに聞いて見よう!」
「うん!」

取り合えず、その人に聞くっていうのはまとまった。六時までは何か一つでも情報を得ようとパソコンで調べたけどお手上げ。
全然わからないまま時間になり、僕たちは急いで神社へと向かった。何かお母さんもお兄ちゃんも帰ってこないけど、どうしたんだろう。


神社にはもうあの留学生がきていた。
先によつばくんのことを聞こうかとも思ったけど、 よつばくんのこと聞くならあさひちゃんから情報を得た後でっていうのはここに来る間に自然に決まった。
留学生……確かクロノさんだっけ? は朝と同じ場所にいた。

「あれ。キミたち。朝、あいましたね?」

クロノさんはにっこりと笑った。あさひちゃんはまだいないのかな。それとも中に隠れてるのかな。

「あの! 聞きたいことがあるんですけど、ここでいつも話している女の子のことどう思ってますか?」

宗ちゃん、いきなりだな! びっくりしちゃったよ。

「いきなりそれですか?」

クロノさんは楽しそうに笑っている。多分、大学生くらいだと思うけど、これが大学生の余裕ってやつ?

「ボク、女の子はスキです。でも、彼女とはあってハなしたコトがありません。 どう思ってるカってきかれたら、あってハナシがしたいデす。まいにちかよえば、あえるとおもったんデすが。 せめて、ナマエだけでもシりたいデす」

クロノさんは残念そうに溜息をついた。そうだよねぇ、やっぱり会って話しがしたいよね。

「わかりました。じゃあ、その女の子と会わせてあげます。そしたら、僕たちの頼みを聞いてくれますか?」

宗ちゃんはそう言って建物の中に入った。ドアを開けて。
何か宗ちゃん急いでる? まだ夏休みはあるのに。僕とクロノさんは何かが起こるのを待った。
暫くは何も起こらなかったけど、宗ちゃんがあさひちゃんをひっぱって出てきた。
あさひちゃんは、恥ずかしいのか着物の袖で顔を隠しちゃってる。

「この子がクロノさんと話していた子。あさひさんです。ここの神社の神様で、真神とは彼女のこと、狼です」

宗ちゃんは、強引にあさひちゃんの腕を下ろし、クロノさんに顔を見せた。狼の耳があらわになった。
あさひちゃんは、チラッとクロノさんのことを見たけど、クロノさんは姿を現したあさひちゃんを見て呆然としていた。
そういえば、西洋の方とかって一神教じゃなかったっけ。よくわからないけど。あさひちゃんは受け入れてもらえるのかな。

「あの。信じてくれますか? 宗一郎の言ったこと。全部本当なんです」

あさひちゃん、緊張しているのかな。少し声が震えている。それとも、怖いのかな。あさひちゃん、こうしてみると普通の女の子みたい。

「そのこえ……ヤット、すがたをみせてくれましたね」

あさひちゃんの声を聞き、クロノさんは頭の整理がついたのか、にっこりと笑った。あさひちゃんも嬉しそうににっこりと笑った。

「あの、それで例の……」

宗ちゃんは気まずそうにあさひちゃんに声をかけた。僕は一瞬何のことだかわからなかったよ。

「あ、うん。よつばのことだね? あたしが知っているのは海を渡って来たってことだけだ。 いや、海外とかじゃなくて、日本の島だよ。そこには、よつばの仲間たちがいて、よつばもそこで生まれた。 こんなことくらいしか知らないよ」
「イッタイなんのハナシをしてるんデすか?」

あさひちゃんが思い出すように言うと、クロノさんが口をはさんだ。

「そうだ。クロノさんは日本でどんな勉強をしているんですか?」

宗ちゃんが、口をはさんだクロノさんに聞いた。そういえば、クロノさんに頼むって言ってたっけ。

「ボクですか? ボクは、日本の文化が好きで、ジンジャとか日本のカミサマ、ヨウカイとかべんきょうしテます。 ヤオヨロズ、面白いデす」

クロノさんはそう言って、にっこり笑った。クロノさん、前も言ってたけど日本好きなんだな。何か嬉しいな。少しテレちゃうよね。

「妖怪についても調べてるんですか!? 僕、ある妖怪の正体を暴かなきゃいけないんです。 調べてもらっても良いですか? 僕が調べてもよくわからなくて」
「オーケー、わかりマした。面白そうデすね。何かジョウホウはありますか?」

クロノさんは、そう言って鞄からメモ帳とボールペンを取り出した。

「えーと。本当に情報が少ないんですけど、山に住んでたってことと、後、あさひさんが言ってた島国出身ってことだけです」

本当に情報が少なすぎる。山はいっぱいあるし、島だってそれなりにある。

「セイベツとかわかりマすか?」

クロノさんはメモを取りながら、宗ちゃんに聞いた。

「それが、女の子か男の子かよくわからない子なんです。取り合えず、子供で人型ってことくらいしか……。 あ、でも多分男の子だと思います。なんとなく」

宗ちゃんは俯いた。せめて性別がわかれば、もう少しどうにかなったのにね。

「オーケー。調べてみマス。ケータイ、持ってマスか?」
「あ、はい」

宗ちゃんは、慌ててポケットからケータイを取り出した。何か二人で赤外線がどうのとか言ってアドレスを交換してた。
やっぱり、ケータイ僕も欲しいな。まぁ、頼んでみてもムダだろうけど。

「何か、わかったことがあればレンラクします。ソウイチロウ?」
「はい。よろしくお願いします。こちらも新しい情報が入ったら連絡しますね」

どうやら交換し終わったみたいだ。あさひちゃんは、ケータイが珍しいのかジロジロと見てる。何か可愛いな。

「今日はイイ日デすね。日本のトモダチできました。アサヒにもあえました」

クロノさんはそう言って、あさひちゃんにウィンクした。あさひちゃんは、真っ赤になって着物の袖で顔を隠してしまった。
そんなあさひちゃんをクロノさんが笑顔で見ていた。
取り合えず、今日の予定は終わったな。何か長い一日だったけど、暗くなってきたし、僕たちは帰ることにした。
何か凄く不思議。お腹が全然減らないや。



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