僕らの不思議な夏休み


僕たちは色々な人に聞き込みをした。だけど、得られる情報はあまりなくて、クロノさんからの連絡もなかった。
宗ちゃんは、段々イライラしてきたし、僕は何かずっと誰かに見られている感覚がしてたしで。
不思議なことにお腹が減らなくて、宗ちゃんに相談したかったけど、宗ちゃんちょっと怖いし。
他の人は僕の話を聞いてくれないし、家の中は相変わらず暗いし。お母さん、たまに一人で泣いているときあるし。
そうこうしているうちに夏休みは残り三週間になった。


あさひちゃんの所に行く途中、僕はまた誰かに見られている感じがした。今までよりも強くそう感じた。
あまりにも気味が悪かったから、後ろを見てみると、いつもは誰もいないのに今日に限って、 電柱のとこから黒いマントを着ている人がこっちを見ていた。
すっぽりとフードを被っちゃってるから顔は見えないし、何か全身黒いマントで覆われていて、気持ち悪かった。
でも、これだけはわかる。僕を見てるって。

「宗ちゃん、あそこ。電柱の後ろ見て」

僕は何だか怖くなり、宗ちゃんにそう言った。宗ちゃんはそこを見たけど「何もないけど?」と言った。
そこには黒マントがいる。今だってこっちを見ている。宗ちゃんには見えていないのか。それが余計に怖くなった。
だって。宗ちゃんの方が霊感強いはずだし。
僕たちは先を急いだ。だけど、黒マントも僕たちと同じペースでついてくる。しかも、段々僕に近づいてきているんだ。
最初は徐々にだったけど、急に段々速くなってきて……。

「うわぁあぁああ!!」
「ど、どうした!?」

僕はあまりの恐怖に頭を抱え、しゃがみこんだ。
だって、あの黒マント、近づいてきたと思ったらマントを広げ僕に覆い被さってきたんだ。何だか凄く怨みを感じた気がした。

「あれ?」

でも、今はその黒マントの姿は見えない。
見上げた先には心配そうにしている宗ちゃんと、楽しそうにしているよつばくん……よつばくん!?

「よつばくん!? いつからここに? あの黒マントは何だったの!?」
「わっ!? よつばくん? びっくりしたー」

驚く僕と宗ちゃん。さっきまで、二人だったのに。よつばくんは楽しそうに、ヒャッ、ヒャと笑った。

「僕は黒マントじゃないけど、君たちの驚いた顔はばっりち見たよ。それよりどうだい? 僕の正体は暴けそうかい?」

よつばくん、ニヤニヤしてる。こっちの状況なんてお見通しなんだ。

「それよりよつばくん。あの黒マントは一体何? 何か最近ずっと誰かに見られてる気がしてたけど、多分あれだと思うんだ」

話をかえたことで、僕は宗ちゃんの言葉を遮った。
宗ちゃんはよつばくんからヒントを貰いたいのかもしれないけど、きっとムダだと思う。よつばくんはヒントなんかくれない。

「あれかい? あれは怨霊だよ。昔は一つの怨みを持った霊だったけど、 たくさんの怨みを持った霊や浮遊霊や自縛霊を自分の一部にしていったらあんな強い怨霊が出来上がったんだ。 それにしても、まだ君は気づいてないのかい? 何故あれが宗一郎に見えないのか、何故君はお腹が減らないのか、 何故君の話を誰も聞いてくれないのか。何故君は見えるようになったのか。何とも思わないの?」

よつばくん楽しそう。僕だって不思議だとは思うけど、気づかないって何? 宗ちゃんは俯いちゃってる。

「あれは君を一部にしようとしているんだ。宗一郎に見えなかったのは、宗一郎は関係ないからだよ。君と宗一郎の違いは……」

僕は息をのんだ。僕と宗ちゃんの違いは? どうして僕にはあれが見えるの?

「……真は、交通事故で病院に居るんだ」

宗ちゃんが呟いた。よつばくんは、ヒャッ、ヒャと笑った。

「君は魂だけの存在。生霊だよ。だから誰も君の話は聞かない、お腹も減らない、今まで見えてなかった者が見える。 黒マントが見えるのは君が魂だから。だから言ったでしょ? 僕の正体を暴けば戻り方を教えてあげるって」

僕は固まった。え、どうして? 僕が交通事故って。
僕は……そうか。思い出した。終業式の日、通知表を忘れたことに気づいて戻ろうとしたときだ。
そこで車に轢かれた。それをたまたま宗ちゃんが見てた気がする。それから、目の前が真っ暗になったんだ。
そうか。戻り方ってそうゆうことか。僕の体に戻る方法。だから宗ちゃんは必死だったのか。
きっと、期限の夏休みは僕の体が死んじゃうか、もう体に戻れなくなるんだ。幽霊とかが見えたのは僕も同じようなものだから。
お腹が減らないのは幽霊は死んでてご飯食べないから。誰も僕の話を聞いてくれないのは皆には見えないから。
お母さんが泣いていた理由や、家の中が暗い理由もわかった気がする。
松田くんとかがいってたあいつってもしかして、僕のこと? 
もしかして、女子トイレに入った時の花子ちゃんの言葉も僕は人には見えないから大丈夫っていう意味だったのかもしれない。

「真は死んでないよ。眠ってるだけ。ほら、よつばくんだって生霊って言ったし、だから戻り方を教えてくれるわけで……」

宗ちゃんが必死で僕に訴えてる。でも、そううまくいかない。いくもんか。
夏休みが終わる前に僕はあの黒マントの一部にされてしまうかもしれない。いや、まだ夏休みは三週間もある。
きっと僕と宗ちゃんならどうにか出来るはずだ。あの黒マントだって。あの黒マントから逃げて、よつばくんの正体を暴かなきゃ。
だって、まだ夏休みは三週間もあるんだよ? 

「夏休みはまだある。でも、時間がない。きっと、夏休みを過ぎれば僕は本当に死んじゃうんだ。 その前にあの黒マントをどうにしかしないと。そうだ、よつばくん。よつばくんはあの黒マントをどうにかできないの?」

そういえば、よつばくんは学校に行ったときに花子ちゃんから依頼されて偽者の花子ちゃんをいなくならせたんだっけ。

「どうにかできるよ。でも、タダじゃ嫌だね」

よつばくんならそう言うと思った。でも、僕も宗ちゃんもあげるような物なんて何も持ってない。どうしよう。

「真のポケットに入っているものでいいよ」
「ポケット?」

僕は不思議に思い、ポケットに手を入れた。何も持ってないはずなんだけど、何かある。何だろう、これ。
そう思い、取り出してみると黒いビーダマが出てきた。何か中で蠢いている。

「それは真があの黒マントに感じた恐怖。それでいいよ。それをくれればあいつをどうにかしてあげる」

本当にこんなものでいいのだろうか。僕にも宗ちゃんにもこれの価値なんかわからないけど、僕はビーダマをよつばくんに渡した。
よつばくんはビーダマを受け取り、ニヤリと笑った。

「では、真に宗一郎。あいつは僕がどうにかするから、僕について存分に調べてくれ」

そう言って、ちょっと目を離した隙によつばくんはいなくなっていた。そんな時、宗ちゃんのケータイが鳴った。

「あ。クロノさんからのメール。今日行けなくなったって」

宗ちゃんがメールの内容を読み上げた。何だ、残念だな。せっかくやる気になってきたのに。



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