夜の街角


白い世界。見渡す限り白。それが、私達と彼の居た世界。だけど、彼は夜の世界へと行った。
ロウの足を取り戻すために。もう何年も帰って来ない彼。私は、彼を迎えに行く。
私が夜の街角に行った時の印象は暗いだ。よく目も見えない。
案内人として彼が来ると聞いていたのだけど、彼は来ない。だから、私は彼を探した。
探している最中、とてもキレイなお店を見つけて、うっかり中には行っちゃった。

カランコロンとドアが開く。

「「いらっしゃいませ」」

同じ声が2つ返って来た。声の方を見ると、青い目をした女の人と、緑の目をした女の人。
2人ともすごくキレイで、そっくり。置いてある宝石にも負けない。

「すごくキレイな宝石ですね」

私がそう言うと、2人はにっこりと微笑んだ。何だか優しそうな人。彼を探すのはここを見てからでもいいかしら。
にしても、キレイな宝石達。私は思わず赤いルビーを手に取った。真っ赤で少し不気味。
私はルビーをもとあった場所に戻し、宝石店を出て彼を探しに出た。

「ち、チイ!?」

彼を探していると、後ろから彼の懐かしい声。
ふりむくと、懐かしい彼の姿。相変わらず白くて、キレイな彼。うっとりしちゃう。
何故か、彼だけ一年中白いのよね。私達は茶色になったりするのに。

「え、何でチイがここに?」
「何でって迎えに来たの。もう、ロウの足はいいの。ロウの一族から許しが出たわ。ロウが太陽を見たいって言ったのがいけないって」

困惑するスーに、必死に説明する。もう、誰も怒っていないということを。
だって、あの時スーはロウを止めたもの。溶けちゃうからって。
でも、空を飛べるスーが羨ましい、俺は春を、太陽を見たいってロウが駄々をこねたの。それで、ロウの足が溶けちゃって、スーはここに来た。責任を感じて。 でも、それももういいの。
スーは怪訝な顔で私を見た。

「……チイ、今すぐ帰れ。今ならまだ間に合う。チイはルールを破った」
「え?」

突然のセリフ。ルール? いつ破ったの? だって、私はちゃんとルールについて調べて来た。
だから、すぐスーに会えると思っていたんだけど……。スーは私の手を引いて、急ぎ足で歩きはじめた。

「駄目だ。僕が知っているってことは、もう遅い。代償を決めるのは店長だ。宝石店へ行こう」

そう言ったスーの表情はわからなかった。

宝石店に着くと、スーが2人に説明をした。

「わかってるよ、わかってるってば。サファイヤ。グレイスさんの使いで出掛けていたんだ。チイにはルールを説明していない。僕のミスだ。僕が悪いんだ」

ここに向かっている時、スーが説明してくれた。あのまま逃げればもっと酷い目に会うと。
しかも、酷い目に会わせるのは案内人をしている自分だと。私は何かとんでもないことをしたのだ。2人は互いに顔を見合わせた。

「そうねー。スーさんがそう言うなら、そっちの女の子にはルール違反の分、働いてもらおうかしら」

緑の目の女の人が私を見た。

「本当? ありがとう、エメラルド。出来れば次の朝日までにしてもらいたいんだ。僕も次の朝日には目的の物を買えて、ここを出られそうだから」

スーの話しを聞き、悩む2人。
何かを思いついたのか、青い目の女の人が手をポンとやった。

「そうね。それでいいわ。でも、それでは足りないの。だから、スーさん。貴方の羽を何枚か……それと、右目が欲しいわ。それで条件を飲んであげる」

にっこりと笑う女の人。私は思わずスーを見た。何だかとても嫌な予感がしたから。
スーを止めたいけれど、私のせいでこうなった。私には何も言えない。

「……チイ、少しの間目を閉じててくれる?」
「うん、わかった」

スーの笑顔。スー、何をしようとしてるの? 止めたい。でも、私はそれが出来ずに目を閉じた。
目を開けた時、スーは青い目の人に何かを渡していた。

「サファイヤ。これでいいだろう? 僕の青い目と、白い羽を5枚。これで満足だろ?」

スーの顔を見た瞬間、背筋が凍りついた。同時に泣きたくなった。
羽は閉まっていてわからないけど、スーの顔には右目が無かった。ぽっかりと黒い穴が空き、血が白い彼に滴っていた。

「そうよ、これよ! この白と青はここにはない輝き。これこそ純白の輝き……。スーさんが来た時から欲しかったのよ」

サファイヤと呼ばれた青い目の女の人は、スーの青い目をうっとりとした顔で眺めていた。
キラキラと光るスーの青い目。私が代わりになればよかった? でも、私の茶色の羽じゃ無理だ。
私は、叫び出したい気持を押さえて、スーの顔に空いた黒い穴を見ていた。




痛くなかった。嘘だ。
羽を毟るのも、目を抉るのも物凄く痛かったし、怖かった。出来ればしたくなかったけど、チイにはさせられない。
それに、久しぶりにチイに会えて嬉しかったんだ。もうすぐだ。もうすぐ、朝日がくる。
僕にはわかるんだ。今日だって東の空を見た。段々と明るくなってきている。朝日が来るころには、足も手に入り、羽も伸びているはずだ。
そうすれば、僕は白い世界へ帰れる。あの、雪と氷の世界に。だから、あともう少しの辛抱だ。



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