夜の街角


僕は魔法屋に使いに来た。ノワールさんの使いで。
ノワールさんは僕を拾ってくれた女の人。とても僕によくしてくれる。


カランコロンという音とともに魔法屋に入る。そこにはノワールさんの姿をしたマジクさんと、子供のトリクさん。
店長のトリクさん。子供に見えるけど、子供じゃないらしいよ。

「やぁ、ネロくん。いらっしゃい」

トリクさんがにっこりと笑い、僕の尻尾がぴんと立つ。
ネロという名前はノワールさんが名前屋から貰ってきてくれた。

「あ、えっと。ノワールさんの使いで来ました。記憶を探って欲しい物があるって」
「あ。トリクさん、あれですよね? 僕持ってきますよ!」

僕がそう言うと、マジクくんは店の奥へと行き、何か箱を持ってきた。
ノワールさんと僕は記憶屋をやっている。多分、あの箱の記憶を読むのだろう。

「あぁ、それだよ。ネロくん、お願いできるかい?」
「わかりました」

にっこり笑うトリクさんにそう告げ、僕は箱を受け取り魔法屋を後にした。
不思議な2人。ノワールさんが記憶を読もうと思ったけど、トリクさんのは見えなかったらしい。
マジクくんのは、スーくんと同じとしぐらいってことは分かったけど、姿は謎。
スーくんと言えば、この間来たチイさんって女の子と朝日が来るのを待っているみたいだね。ノワールさんが言うにはもうすぐ朝日なんだって。

「あ、スーくんにチイさん」

店に帰る途中、誰かを案内している2人を見かけた。
ここは、仕事がないとやっていけない。ここに住む人は、皆商売人だ。年中無休だけど、朝日が来ると休む。
ノワールさんは2人の記憶を見たって言ってたよ。2人はどこか雪国に住む鳥だと言っていた。別に驚かない。僕だって人の姿をしているけど、本当は猫なのだから。

「ノワールさん、ただいま」

店に帰るとノワールさんが仕事をしていた。
人の頭に手を置いて、記憶を探っている。あの人はルール違反者だろうか。なんのルールを破ったのかは知らないけど、記憶を探り、 後であの人に関する記憶を全ての人から消すのかもしれないな。
戻っても自分のことは誰も知らない。自殺したくなるよね。

「あぁ、ネロ。お帰り、おいで」

あの人がぐったりと崩れた。ノワールさんは笑って僕に手招きをする。
僕は小走りでノワールさんの所に行き、抱き上げられた。

「ちゃんとお使いが出来たみたいだね。いい子だぞ、ネロ」

ノワールさんが僕のほっぺたにキスをする。僕はノワールさんが好きだ。
ノワールさんが言うことならなんだってするよ。

「いつかはトリクとマジクの記憶が読めたらなぁ」

ボソっと呟くノワールさん。トリクさんがいる以上、マジクくんの記憶は守られている。
でも、それがノワールさんの望みなら、僕頑張ってみるよ。




僕はネロ。黒いノワールさんの、黒い飼い猫。記憶を食べる猫。今日のご飯はさっきの人の記憶かな。



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