夜の街角


「こんにちは」
「あ! チークちゃん! 持ってきてくれた!?」

あたしは今、楽器屋に来ている。ここのホルンちゃんと、ピアノちゃんは好き。女だらけの店の同盟も組んでいるくらい。
だめよ、宝石店の2人は何かお高く止まっちゃって気に食わない。
本当は、クッキーも入れてあげたいんだけど、エクレアさん男だからダメね。

「持ってきたよー。はい、これはホルンちゃんの。こっちはピアノちゃんの」

あたしは鞄の中から、マニキュアを2つ取り出す。
2人から頼まれていたもの。ここの2人は歳も近いし、話も合うのよね。

「わー! ありがとう! リップちゃんにもお礼言っといて! っと、それでこれはリップちゃんが欲しがっていたCD!」

黒髪のピアノちゃんがすっとCDを取り出す。
ホルンちゃんはさっそく塗っているみたい。何だか嬉しいね。

「ありがとう。これでリップちゃんも喜ぶよ。 本当は、リップちゃん来たがったんだけど、ネイルのお客さんが入っちゃってねー。あたしもこれから髪切ったりで大忙しよ」
「2人は上手いもんね。今度、私もやってね」

ピアノちゃんが笑う。ホルンちゃんはうっとりしている。
あたしとリップちゃんのお店は美しくなるものを扱っているの。 メイクや、髪染め、香水。エステもやるし、ネイルも、髪を切ったりもする。
大忙しの人気店。うちでは、ルールを破る人もあんまりいないの。
買う前も、あたしたちに言えば触っていいしね。
だって、自分に合うもの知りたいじゃない。それで、あたし達の店を後にした人たちは、大抵靴屋か洋服屋に行くわ。 あんまり面識はないけどね。

「じゃ、あたし帰るねー。また来るからさ」

手を振り、楽器屋を後にする。店に帰る途中、スーとチイさんを見たわ。
あたしは常々思うんだけど、2人ともダメよ。おしゃれに興味なさ過ぎる。
スーだって、目がないのなら何かキレイな物を入れればいい。
チイさんだって、磨けばキレイになるはず。本当残念よね。
でも、2人は朝日が来たら行っちゃうんだっけ?

「リップちゃん、ただいまー」

自動ドアが開く。今更カランコロンなんてダサすぎる。
ここに合わせた黒い店? そんなの嫌。おしゃれは明るくないと! グレイスなんて無視よ!

「おかえり、チークちゃん」

あ、リップちゃんはまだネイル中か。あたしもそろそろ準備しないとね。もうすぐお客様が来る。
夜の街角って変な噂があるけれど、うちの店はそういったことは一回も起きてないの。ルールを破る人もいない。
皆、純粋にキレイになりたくて来るの。あたしはそれが誇り。
キレイになって帰るお客様の顔を見るのが好き。いつかは明るい世界にも店を出したいね、って話しているけど、 ここの住人は夜に魅せられた人。夜の世界じゃないと生きられない。あたしも、リップちゃんも。
でも、いつかね。夢はでっかくよ!

「いらっしゃいませ!」



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