見捨てられた勇者


アカギからの情報で、白い髪の少年がやってくるという話を聞いた。
剣もなければ鎧もない。一体何しに来るのかわからないとアカギは言った。 クロウは、それが何だか彼らしくて、思わず笑いそうになった。

「魔物達に襲うなって伝えて。それと、アカギ。彼を僕の所に連れてきて。アカギが連れてきた方が速い」

会いたい。話がしたい。クロウはまず初めにそう思った。
アカギは意味がわからないという表情をしていたが、深く礼をする。

「承知いたしました、クロウ様」

アカギは消えた。
きっと、彼だ。いや、絶対彼だ。
小さい頃からどんなことがあっても、剣は持たないと言っていた。そんな彼がここに来る。

「でも、何で?」

ふと頭を過ぎった疑問。シロップは、自分が魔王だということを知らないはずだ。なら、魔王を倒しにきたのだろうか。
剣も持たないで? それでどうやって倒すのだというのだ。シロップはトーヤと違い、魔法は使えなかったはず。

「もしかして、僕と同じ理由で……」

この間ここに来た少年達。きっと、彼らはシロップの友人であろう。まさか、その復讐をしにくるのだろうか。
剣も持たないで? だけど、自分だって母親の復讐をしている。友人を殺された人間が、敵討ちをしようと思うのは、おかしくはない。

「じゃあ、やっぱり……君は……」

クロウの頬に涙が伝う。




シロップは目の前の人物を見て驚いた。変な女にここまで連れてこられたのにも驚いたが。
それよりも、目の前の人物を見て驚きを隠せなかった。と、同時に懐かしいと感じた。そこには懐かしい人物が立っている。

「クロウ」

懐かしい人物の名前を呼ぶ。小さな村で一緒に育ち、遊んだ友達。トーヤが旅立ったことで、離れ離れになった。
未だにあの村に住んでいると思っていた。クロウはニコリともしなかった。少し警戒しているようにも見えるが、ここまで自分を連れてきたということは覚えているはずだ。

「お前、クロウだろ? 俺だよ、覚えてる?」

笑顔を見せるシロップ。だが、クロウの表情は変らない。

「忘れるわけないよ。それより、こんな所まで何しにきたの?」
「え? あ、うん。何でこんなことやってるのかなって。それを聞きに来た。 どうせ、俺は弱いから魔王を倒すなんて無理だ。だから、俺に出来ることをやろうと思って。だから、聞きに来たんだ」

クロウの思っても見ない言葉だった。すっかり退治しにきたと思っていた。
いつもの奴らのように。だけど、シロップは違った。それが何だか嬉しく感じた。

「いや、嫌なら言わなくてもいいんだぜ? でもさ、言わなきゃわかんないじゃん。 何でこんなことやってるのかとか。人と魔族そりゃ、色々あるけどさ、言葉があるじゃん。通じ合えるじゃん。だからさ、うん。分かり合えると思うんだ、俺は」

相変わらずのシロップ。何色にも染まらない。だけど、もしシロップがトーヤの今を知ったらどうなるのだろうか。
クロウは何だかそれが気になった。トーヤの今を知れば、シロップは黒に染まってしまうのだろうか。自分だけが知っているトーヤの今。

「シロップは変らないね。そうだ。シロップに見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」

シロップは首をかしげた。クロウはにんまりと笑った。



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