見捨てられた勇者
世界は再び闇で覆われた。人々は恐怖を思い出した。
町を村を襲う魔物や魔族達はまるでお祭り騒ぎ。魔王が復活したと。
一体どのくらいの人が死んだのだろうか。でもこれは復讐だ。人間達への復讐だ。
毎日、常にどこかしらで魔物が暴れていた。現魔王クロウも魔女のアカギを連れて、城から出ることがある。
初めは誰もが間違える。整えられた黒い髪に黒いマント。
中性的な顔立ちのクロウは誰が見たって世界を闇で覆った張本人には見えない。
それもそうだ。クロウの服装は勇者トーヤを真似したものなのだから。トーヤのことは知っている。
それこそ服装も、性格も。同じ小さな村で育ち、今でも見ることがある。
「ああ、勇者様が助けに来て下さった」
魔物に襲われていた男はクロウの姿を見てこう言った。
クロウはそれを聞き、ニタリと笑う。その後のやることは決まっている。助けられると思い、ほっとした所で相手を消すのだ。
クロウにとってあの日から人間は怨みの対象でしかない。
「僕は人を許さない。母は父を非難していた。母にはなんの罪もなかったはずだ。
それなのにお前達人は母を殺した。今度はお前達が退治される番だ」
クロウは魔王と魔女の間に生まれた。父が魔王だということは知っていたが、一緒には暮らしていなかった。
母はよく父を好きになったことが唯一の失敗だと嘆いていた。そのため六年前に父が消えたときには何とも思わなかった。
父のこともよく知らなかった。
クロウは母と一緒に小さな村で育った。人間達と一緒に。
母は何もしていなかったのに、人間達は魔王が消えた三年後に罪のないクロウの母を探し出し、殺した。
魔女で魔王の妻というだけで。
その手はクロウにも伸びたが、クロウは必死で逃げた。逃げて逃げて、魔族や魔物を集めた。
母が死んで二年あまりたった日、クロウは魔王へ君臨した。母を殺した人間達だけに復讐するという目的で。
その日からほぼ一年がたった。父であるグレイは一年も魔王に君臨してはいなかった。
世の中はまた勇者がやってくれると思っているらしいが、前の勇者がいないことはクロウにはわかっていた。
「ひぃい、お助け……」
殺された仲間を見て、白い髪を持つ男が腰を抜かしたまま、後ずさった。
クロウは男を見据える。
「クロウ様、こいつが最後です」
クロウより背の高い魔女のアカギがクロウに跪く。だが、クロウは男を見ているだけで一向に手を下そうとしない。
クロウがそうしている間にも、白い髪の男はどうにか立ち上がり、森の奥へと逃げて行った。
「クロウ様? なぜ、あの男を……」
アカギはぎょっとした。クロウは泣いていた。
次から次へとクロウの目から涙が零れてくる。ここではないどこかを見ているような目。
「クロウ様!」
アカギはクロウの名を大声で呼んだ。クロウははっとして、涙を拭った。
「ごめん。あの色を見ると……」
クロウは白が苦手だった。自分が闇に属すからではない。もっと、それは、別の……。
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