見捨てられた勇者


村が一つなくなったという話は直ぐにシロップ達の元へと届いた。
相変わらずのシロップであったが魔王討伐隊のメンバーに自分の名前があったことには驚きを隠せなかった。

「俺、行きたくないんですけど。何で入ってるんすかね?」

相変わらずだらしがない服装のシロップ。討伐隊を決めたのはキースとチャコだ。
シロップはキースに抗議しにいった。正直なところチャコのことはあまり会ったことがなく、よくわからない。キースは深く溜め息をついた。

「シロップ。お前は恥ずかしくないのか? お前の同期達は自ら志願した。トーヤもそうだ。お前のお父上だって勇敢に戦っていた」
「俺は勝ち目のないことはしたくありません」

シロップはきっぱりとそう言った。キースは不思議そうな顔をし、声に出して笑った。

「そんなことはわからないぞ。俺達も、トーヤだってそうだ。トーヤはあの若さで勝てたんだ。お前だって出来るかもしれないぞ」

キースはいつもその話をする。最年少の勇者トーヤの話を。
だがトーヤの姿を六年前から見たものはいない。

「なら何でトーヤはいないんだ。何でトーヤだけ帰ってこないんだ」

勝ったというならなぜ帰ってこないんだ。キースは何も言葉を返さなかった。
この話題になるとそうだ。初めて会った時も。父親のことは教えてくれたがトーヤのことは何一つ教えてくれない。生きているか、死んでいるかさえも。
シロップは薄々気づいていた。キース達が、トーヤが魔王を倒したと言っている証拠は世界が平和になったから。本当はトーヤと魔王がどうなったのか知らないことを。

「とにかくだな。俺が言いたいのは、やってみなくちゃわからないと言うことだ」

キースは咳払いをし、話を変えた。

「やってみなくてもわかる。たくさんの村や町が消え、魔王を倒しに行った奴らは誰も帰ってこない。お前達がやっていることは見殺しにしているのと同じだ」

シロップはキースを見据える。
世界を救うためになんか死にたくない。どうして自分達がやらなくてはいけないのか。

「おい! まだ話は終わってないぞ!」

シロップはキースが呼び止めるのも部屋を飛び出した。

「皆を止めないと」

シロップは早足で廊下を行く。
新たな魔王が現れて一年。前の魔王が出来なかったことを、圧倒的な強さで、たった一年でやり遂げた。 あっというまに世界を闇で覆い、人々の心に恐怖を取り戻させた。
もしかしたら前の魔王より強いかもしれない。そんな魔王の所に行くのは自殺行為だ。

「おーい、シロップー!」

声がした。後ろを振り向くと、アオトが走ってくるのが見えた。
そういえばアオトの名前も討伐隊メンバーに入っていた。

「アオト。討伐隊メンバーを今すぐ俺の部屋に集めろ」
「へ? お、おう」

アオトは急なシロップの頼みに驚き、意味もわからず頷いた。アオトはすぐに走って行き、皆を呼びに行った。



シロップが部屋で待っていると、討伐隊メンバーに名前があった九人の少年達がやってきた。
皆剣を持ってきていないため、一目見ただけじゃ剣士なのかもよくわからない。
メンバーの中にはよく知らない奴や年下も年上もいた。

「何だよ。気合いでも入れようってか?」

年上の少年がにんまりと笑う。中には緊張しているのかカチンコチンな奴もいる。

「違う。気合い何かいれない。俺が言いたいのは死ににいくなってこと」

いつもの調子で答えるシロップ。
ざわつく。それは一体どうゆうことだ、と。数人にいたってはムッとした顔をしている。

「いきなり呼び出しておいて何だそれは。やってみなくちゃわからないだろ。俺達はトーヤみたいになりたいんだ」

真面目そうな少年がそう言い返す。
その少年に賛同する少年達。アオトはただ、じっとシロップを見ている。

「わかるよ。これまで誰も帰ってきてない。トーヤだってそうだ。大体、何で俺達なんだ? 大人達じゃなくて。キースやチャコの方が強いだろ」

大人の方が力もある。それにここにいるメンバーはまだ一度もキースやチャコには勝てていないだろう。
その証拠が、このざわつきである。そういえばそうだ、何かがおかしいと。

「本当に世界を救う、守るなら大人達が行くべきだ。なのに大人達は卑怯だ。自分達がやりたくないから俺達にやらせるんだ」

シロップは何かを思い付いた。
それはとても悲しいことだか誰も知らないということは合っている可能性の方が高い。

「確かにそうだ。それはずっと思っていた。何で自分達がいかないのかと……」

始めにしゃべった年上の少年。
自ら志願していても、誰も死にたくはない。だから皆、ひそひそと何かを話している。

「そうだ。俺達じゃなくて大人達が行けばいいんだ。トーヤには憧れているけど死にたくはない」

真面目そうな少年がそう声をあげた。他の少年達も同じように声をあげる。

「俺はもとから行く気なんかないけどさ。そんなことよりさ、何か弾いてくれよ。皆で歌えるやつ」

アオトの突然の提案。
楽しそうに笑っている。シロップはニッと笑い、拍手の中ピアノの椅子に座る。
静まり返る部屋。そんな中、弾むような楽しい音楽が鳴り響く。少年達は笑いあって歌う。まるで死の恐怖から解放されたかのように。



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